研究課題/領域番号 |
25400342
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
播磨 尚朝 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50211496)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 核四重極共鳴 / 第一原理電子状態計算 / 強相関電子系 / 相転移 / 電場勾配 |
研究実績の概要 |
本課題研究の目的は、第一原理電子状態計算の手法を用いて、固体中の原子位置での電場勾配の微視的な起源を明らかにすることを計算手法として確立することにある。電場勾配を与える物理量の成分分析を行うことの利点は、微視的な物理描像が得られるばかりでなく、実験結果との不一致の原因を微視的な視点から明らかにすることで、電場勾配の計算方法の改良にもつながる。今年度は、成分分析のプログラムを作成しつつ、本体の電子状態計算手法の改良を行った。一般に原子番号が大きい原子はスピン軌道相互作用が電子状態に大きな影響を与えることが知られているが、スピン軌道相互作用の定量的な評価はこれまで十分に行なわれてこなかった。最近、結晶構造に反転対称性がない物質ではフェルミ面がスピン自由度で分裂しているので、スピン軌道相互作用の定量的な評価をすることができることが明らかになってきた。今回、立方晶カイラル構造であるPdBiSeのフェルミ面の研究を通じて、Biの6p電子の様に原子番号が大きく軌道角運動量が小さい価電子に対してはスピン軌道相互作用における相対論的な質量補正の効果が大きいことを定量的に明らかにした。この質量補正の効果は電場勾配にも大きな影響を与えると考えられる。前年度までに明らかにしたLaOBiS2のF置換系でのBiのNQR周波数変化はBi-6p電子の寄与が大きいと予想されるのが、予備的な計算では質量補正効果により15%程度の電場勾配の変化がある。これは微視的な計算手法を確立する上での重要な知見である。このほか、f電子系ではSmB6の圧力下のBのNQRに対する計算を実行したが、圧力下で格子定数が小さくなると共にNQR周波数が小さくなるという実験結果を再現することは出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な系を計算している中で、スピン軌道相互作用における相対論的な質量補正効果が電子状態に及ぼす影響を定量的に評価することができた。これは、研究計画当初には予想していなかった結果であるが、前年度から注目しているLaOBiS2のBi位置での電場勾配の解析には極めて重要な知見である。プログラム開発の遅れがあるものの予想外の成果が得られたため、全体として研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
スピン軌道相互作用における相対論的な質量補正効果を考慮した電子状態計算プログラムを完成させたので、この計算手法に基づいた電場勾配の計算を実行し、その場合の成分分析のプログラムを作成し、LaOBiS2系のBi-NQR周波数のF置換依存性などの理由を明らかにする。引き続き、国内外のNQRの実験的研究者と密に連絡をとり、様々な系での検討を加えていく。特に、質量補正効果が大きいと思われるBi-6p電子を含む化合物においてNQRの実験結果と定量的な比較を行うことで、計算の信頼性を示すことが重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワークステーションの老朽化と計算方法の改良による計算量の増加により、新しいワークステーションを購入する必要があったために、予定していた国内出張を次年度に先送りしたりして、その費用を捻出した。その差額として次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の配分額と合わせて、研究打ち合わせなどの出張計画を見直して有効活用する。
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