研究課題/領域番号 |
25400344
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
多々良 源 独立行政法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (10271529)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スピン起電力 / スピンBerry位相 / スピン軌道相互作用 / モノポール |
研究実績の概要 |
高密度記録素子や演算素子において温度上昇に伴う排熱の処理は避けられない問題である。特に集積化により微細化した素子にとってはこの問題は性能向上において致命的な障害となりうる。この観点では熱によって引き起こされる輸送現象は、熱輸送により排熱の処理を効率的に行うだけでなく、排熱をデバイス動作のために再利用する可能性を実現しうる非常に重要な課題である。微小領域での熱輸送や熱誘起輸送現象の理論的定式化は1964年にLuttingerにより提案されており、原理的にはこれに沿って微小領域での熱輸送は記述できるはずである。しかしながらこの枠組みによる解析は計算が煩雑であり、それだけでなく、平衡流に伴って生じる非物理的寄与を物理的考察により正しく取り除く処理をしない限り絶対零度に向けて発散する誤った答えを出してしまうという致命的な欠陥をもつことが、多種の熱輸送現象への適用例により明らかになっている。2014年度我々は温度駆動スピン依存伝導現象の解析を進める上で、Luttingerの枠組みのもつ本質的欠点を改善した熱輸送を記述する理論体系の構築をおこなった。 これにより従来の熱輸送現象における理論の難解さはなくなり、エレクトロニクスの基盤となっている電子輸送の理論体系と同等に、 使いやすく正確な理論体系を熱輸送現象についても実現することができた。また、これまで直感的な期待であった「金属中の電子に対 して電場と温度差の効果は同様に働く」という推測を、今回構築した理論により裏付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではスピン依存伝導現象の解析が主たるテーマであるが、最近特に注目されている熱駆動スピン依存伝導現象に着目することで、一般的で新しい定式化の提案という今後の発展性の大きな成果を得る。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度定式化をおこなった熱輸送現象のベクトルポテンシャル理論を様々な系に応用し、熱とスピン自由度の間の変換現象を統一的視点から記述することを目指す。まずは、温度勾配によって駆動される電子やマグノンによって生成される磁化構造に対するトルクの評価を行い、磁化構造の熱駆動の理論定式化をベクトルポテンシャル形式で行う。有限温度で重要になるフォノンなどの効果の取り入れも行い、現実的な特性予測を行う。また光とスピン自由度の結合に関して、強いスピン軌道相互作用をもつ系の電磁気応答特性を、相関関数の微視的解析及び電磁場の有効作用の導出により明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度にポスドク研究員の人件費としてまとめて使う事が予想されたために繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
ポスドク研究員の給与の一部として大部分を用い、その他旅費として用いる予定である。
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