研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、量子スピン液体状態だろうと言われているフラストレートした磁性体 Tb2Ti2O7 の基底状態を実験的に究明することである。我々の最近の研究結果に基づく予想も含めた仮説では、この系は Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} と書くべきものであり微小な x (and y) に依存して基底状態が変化する。 x > x_c = -0.002 では、0.5 K 付近で4極子秩序 (and Jahn-Teller 格子変形) が起こると同時に微小磁気モーメントの反強磁性体になる。一方 x < x_c では、この系はスピンと4極子(格子変形)の両者が量子力学的に揺らいだ液体的基底状態になるだろうと考えている。このようなスピン-4極子(格子)系の揺らいだ基底状態と量子相転移の研究例はほとんどなく、非常に重要な物性物理学の舞台になっている。本研究目標を達成するには、Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} の純良単結晶を育成することが最重要課題であるが、2013 年は、赤外線イメージ炉を用いた FZ 法の育成条件を様々に試し、数 mm 程度の大きさの長距離秩序を持つ純良単結晶を育成することに成功した。現在、この単結晶を用いて比熱、磁化、中性子回折実験を用いた物性の総合評価を行っている。この単結晶が真に純良かどうか?の判断は、これらの実験結果と解析を待つ必要がある。当初の研究計画では、2013年3月に納入された新しい 3He クライオスタットを用い、試料を評価するために低温比熱&磁化の測定を可能にする予定とした。こちらの計画は、3He クライオスタットを使用する上で低温技術上の若干の問題があることが分かったので進行が遅い状況となってしまった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} の純良単結晶を育成することが最重要課題と考えていた。難しい課題であったが、これを担当した学生の努力とおそらく幸運にも恵まれて、長距離秩序を持つ純良単結晶を育成することに成功した。結晶の純良部分の大きさは、現在は数 mm である。これは、比熱、磁化、中性子回折実験には十分可能な大きさである。3He クライオスタットは簡単に使えるものと考えていたが、実際はそうではなく技術上の問題があることが分かった。現在もいろいろ試しているが、使い方を工夫すれば何とかなる問題と思われる。
本研究の目的達成には、長距離秩序を持たない純良単結晶を育成することと、中性子非弾性散乱実験も可能な大型単結晶の育成が最重要課題である。現在も良い結晶育成条件を見つけるべく努力中であるが、簡単ではない。幸運をつかんで成功させたい。
当初の計画では、低温磁化測定をするためにキャパシタンスブリッジを購入する予定としたが、当該機種が学内にあり使用可能なことが分かったため購入しなかった。2014年に、ソープションタイプの3He クライオスタットが稼働するのは、まずはゼロ磁場下のオレンジクライオスタット内の予定である。この次年度使用分は、オレンジクライオスタットに入る小さいマグネットを作って磁化測定を可能にするために使う予定である。
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