研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子スピン液体状態 (QSL) だろうと言われているフラストレートした磁性体 Tb2Ti2O7 の基底状態を実験的に究明することである。研究当初に以下の仮説を立てた。この系は Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} と書くべきものであり微小な x (and y) に依存して基底状態が変化する。x > x_c = -0.002 では、0.5 K 付近で電気的4極子秩序 (QO) が起こると同時に微小磁気モーメントの反強磁性体になる。一方 x < x_c では、この系はスピンと電気的4極子の両者が量子力学的に揺らぐ QSL 状態になる。 この仮説を検証するには、 Tb{2+x}Ti{2-x}O{7+y} の純良単結晶を育成することが最重要課題であり、2015年11月にはついに x を制御した ( x > x_c and x < x_c ) QO および QSL 基底状態をもつ大型単結晶の育成に成功した。2015-2016年度は、これらの単結晶を用い ILL-IN5, ILL-Thales, JPARC-AMATERAS で中性子非弾性散乱実験を行ない、QO および QSL 状態の特徴と考えられる磁気スペクトルの観測に成功した。 現在この興味深い実験結果を解析中であるが、中性子TOF実験データ解析は(ビッグデータの処理であるため)CPU を用いた数値計算にメモリと時間が予想以上に必要で、数値計算に困難を極めている状況である。これを解決するため FORTRAN source codes の書き直し、multi-core-CPU の購入&整備を進めたので、今後数ヶ月程度で解析結果が出るものと予想している。QO 論文 H. Takatsu et al. PRL 116, 217201 (2016) に続く QSL 論文を2017年夏までに投稿したい。
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