研究課題
銅酸化物高温超伝導体の超伝導転移温度Tcは、単位胞に含まれるCuO2面の枚数を増加させるにつれ増加傾向を示すことが経験的に知られている。その機構を解明し、更なる高Tc物質開発の指針を得るためには、多層型高温超伝導体(CuO2面を3枚以上有する物質)の不足ドープ域に見出された「反強磁性金属相」の物理を理解することが重要である。詳細な物性研究には単結晶が必要であるが、不足ドープ単結晶の取得が困難を極めている。ここでは、三層構造のBi系高温超伝導体(組成:Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ 、略称:Bi-2223、Tc≒110K)に着目し、その不足ドープ単結晶の育成法を研究した。従来のBi-2223単結晶では、Tcにして約90-100 K程度のやや不足ドープまでの調整が限界とされてきた。それ以上に酸素を抜くと、結晶が壊れてしまう。問題解決のため本研究では、単結晶育成とその後の熱処理において、次のような工夫を施した。(1)溶媒移動浮遊帯域法(TSFZ法)を用いた単結晶育成においてBi-richな原料棒組成(Bi2.2-2.25Sr1.9-2.0Ca2Cu3O10+δ)と還元雰囲気(酸素10%+アルゴン90%)を用いた。Bi-richな組成は、Cuの有効価数(キャリアドーピング)を減少させると期待される。還元雰囲気は棒の融点を低下させ液相線を拡幅し、育成を容易にすると考えられる。(2)二段階の熱処理を行った。最初は600℃、2Paで1-3 h、次に500℃、0.5-1.0Paで30minの熱処理を施した。このような「穏やかな」真空雰囲気を用いることによって、結晶表面は劣化することなく、電気抵抗の測定が可能であった。こうして、Tc(ゼロ抵抗温度)にして約20-35 K程度の不足ドープ単結晶を得ることに成功した。X線回折によって、結晶性が良好に保たれていることが分かった。帯磁率測定によって、バルクな超伝導であることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
Bi-richな原料棒組成と還元雰囲気を用いることによって、不足ドープ Bi-2223単結晶の作製に成功した。この結果は、予想以上の成果と言える。一方、レーザーを用いた単結晶に育成に関しては、まだ成功していない。
集光性に優れたレーザー光を用いて、大型の単結晶育成を狙う。弘前大学と分担者の研究室には異なるタイプのレーザーFZ装置があるので、それぞれの特徴を生かした育成実験を並行して行う。
昨年度は、論文投稿のための英文添削や投稿料、国際会議の参加費等がかさんでしまった。このため、予定の結晶方位切断機の購入を見送った。
実験研究を行っていると、思わぬトラブルによって予期せぬ出費を強いられることがある。高額な物品の購入を控えつつ計画的に使用していく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 84 ページ: 024706-1-6
10.7566/JPSJ.84.024706
Journal of Physics: Conference Series
巻: 507 ページ: 012038-1-4
10.1088/1742-6596/507/1/012038
http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~twatana/index.html