研究課題/領域番号 |
25400351
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
横山 寿敏 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60212304)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | モット転移 / ドゥルーデ重み / 位相因子 / 変分モンテカルロ法 / フラックス状態 / 局在長 / 擬ギャップ / 局所的循環電流 |
研究概要 |
銅酸化物、有機κ-ET塩などの超伝導体や冷却原子気体などの広範な系で、モット転移やモット絶縁体周辺の系を司る「モットの物理」について、科学的興味の他、応用の観点から、最近実験的研究が大きく進展している。一方で、「モットの物理」の理論的研究は多体問題の難しさが障碍となって、依然定性的範囲に留まっている。モット転移を金属絶縁体転移としてユニバーサルかつ定量的に扱う方法として、(i) ベリー位相理論や (ii)コーンの方法が特に有望であるが、強相関系の困難さから、これまでの研究例はごく限られていた。本研究では、局所的多体因子を厳密に処理できるためモデルパラメーター全領域で精度良い定量的計算が可能であり、また変分原理に立脚する意味で信頼性が高い変分モンテカルロ法をこれら二つの理論に適用し、「モットの物理」の本質と、その様々な重要な側面を明らかにするのが目的である。 昨(初)年度は、(i)、(ii) の理論的枠組みを、最も単純でかつ実際の系のモデルとしても有用である二次元正方格子上のハバード模型において定式化し、それに合わせて必要最小限の基礎的な波動関数を設定して、変分モンテカルロ法を用いた計算により、エネルギーや秩序変数などの基礎的な物理量を計算した。 (i)の主な結果として、絶縁体側から金属絶縁体を考える上で有用な局在長λを計算する方法を定式化し実行した。λはモット転移点Uc/tで発散的異常を示し、ベリー位相理論に変分を援用して、モット転移を正しく記述できることを示した。(ii)の主な結果として、ハーフフィリングで Drude(超流動)重みの計算を行った。その際に波動関数に周囲の電子配置に依存した位相因子を導入することが重要である。通常のノーマル(常磁性)状態とd-波超伝導状態のドゥルーデ重みの計算から、正しくモット転移を記述できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「概要」欄で記した3年間の研究期間内に達成すべき研究目的のうち、初年度に予定していた研究は概ね実行でき、ほぼ期待していた通りの成果が得られた。「概要」欄で挙げた2つのトピックス(i)(ii)について、以下でそれぞれもう少し詳しく説明する。 (i)に対して、導体と絶縁体を区別する測度として有用な局在長λを計算する方法を、正常(常磁性)状態、d-波超伝導状態、反強磁性状態に対して定式化し、変分モンテカルロ法の計算を実行した。λは絶縁体側から金属絶縁体転移を考える上で極めて良い測度であるが、ハーフフィリングにおいて、相関強度U/tを∞から減少させて行くと、他の物理量から決められたモット転移点Uc/tで、λも発散的異常を示し、モット転移を正しく記述できることを示した。これにより、(i)のトピックについては予定していた研究を概ね終えることができたと考える。今年度からはより大きなトピックである (ii) とその発展を軸に研究を進める。 (ii)に対して、まずハーフフィリングでドゥルーデ(超流動)重みDの計算を行った。研究目的の欄でも記したように、コーンの方法でDを計算する場合、パイエルス位相を導入することに伴い、状態はカレントを持つ状態にある。従って、相関のある波動関数では相関による波動関数の位相のシフトを補正する位相因子を導入しなければならない。物理的考察から強相関域に於ける位相因子は二重占有サイトと空サイトの空間配置に依存した位相因子を導入せねばならないことを突き止め、これによってノーマル状態及びd-波ペアリング状態におけるモット転移を D の観点から記述することに成功した。これによって、多体変分法と金属絶縁体転移に関して長年謎であった Millis-Coppersmithの問題を解決することができた。以上より、掲げた研究目的の初年度分は概ね実行できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(i)の研究は概ね完了したと見なせるが、(ii) のドゥルーデ重みの研究から、興味深い関連研究対象が見出された。今年度以降は(ii)のトピックを中心に、関連する研究も併せて遂行する。以下により具体的な今後の研究方針を書く。 (i) で、モット転移が金属-絶縁体転移の一例として、ベリー位相の方法により定量的に議論できることが解り、当初目的は目途が立った。今年度以降は、不純物が入った強相関系での金属-絶縁体転移について、方法の拡張を考える。 (ii) では、まず、反強磁性状態では金属絶縁体転移が弱相関極限で起こるため、強相関域を念頭に二重占有サイト(D)-空サイト(H)の配置に基いた位相因子だけでは、ドゥルーデ重みではうまく転移が記述できない。弱相関域ではDやHの生成消滅に関わらない孤立したDやHの過程が多数出て来るためである。ドープされた強相関域も似た状況である。従って、D-H 過程に関わらない孤立したホールとその周辺の電子配置に依存する位相因子をさらに導入すれば、交替フラックス(SF)状態はさらに安定化する可能性がある。そこで、まずそうした因子を導入して計算を行う。一方、局所環状電流を持つSF状態がノーマル状態として安定である可能性が出て来た。SF状態が擬ギャップ相を体現すると仮定すると、ノーマル相と超伝導相間の転移は、これまでのBCS機構で考えるのは不可能で、新たな理論の構築が必要である。そこで、次に擬ギャップ状態からの超伝導転移機構をVMC法の結果を基に考えたい。また、銅酸化物の様々な実験では、d-波超伝導の転移温度以下でも擬ギャップが見出され、共存の可能性が強く示唆されている。そこで、SFとd-波超伝導が共存する波動関数を考え、それがどのくらい安定化し、そこではSFとd-波ペアリングが競合するのか共存するのかをモデルパラメーターの関数として明らかにしたい。
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