水素化合物においては、水素の質量が小さいため、原子核零点振動の影響が無視できない。高密度水素に関していうと、零点エネルギーは陽子一個当り0.2~0.3 eVと見積もられている。構造間のエネルギー差が一原子当り0.01 eVのオーダーであることを考えると、この値はかなり大きい。そして零点エネルギーが大きいことは、低温でも原子振動の振幅が大きく、非調和性が重要になることを意味している。この非調和零点振動の問題に対し、平成26年度はself-consistent harmonic 近似 (SCHA) によるアプローチを進めた。手続きとしては、まず原子間有効二体ポテンシャルを第一原理計算に基づいて作成し、そのポテンシャルの下でSCHAを実行している。高密度水素に対して適用した結果、SCHAにより計算された非調和性は、零点エネルギーを一原子当り0.01eVのオーダーで低下させることが分った。またこの低下は分子相で特に大きく、即ち、非調和効果により分子解離圧が上昇する傾向があることも確認している。 一方、水素化合物における新たな金属相の探索も実行した。Goldhammer-Herzfeldの条件によると、分極率の大きい分子ほど低圧での金属化が期待できる。ところで、重元素の水素化合物には相分離に対して不安定なものが多いが、この不安定性は分極率の大きさにもつながっている。つまり不安定ではあるが、圧力誘起金属化しやすい物質と捉えることができる。この指針をもとに重元素水素化合物への圧力効果を調べたところ、予測どおり低圧で金属化しやすく、また圧力をかけることで組成変化が起き、化合物状態が安定化される傾向があるとの結果を得た。
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