アルミ基正二十面体準結晶および近似結晶における多様なクラスタ配列構造を解明し、それらの系統的理解を推進することを目的とした。通期の成果として、Al-Pd-M(M=遷移金属)系における未知の近似結晶相を複数発見し、それらの構造のいくつかをX線回折等を用いて決定したことが挙げられる。また、これらの結晶におけるクラスタの配列様式がカノニカルセルと呼ばれる四種類の多面体を用いて幾何学的にモデル化可能であることを明らかにした。以上に加えて、当初計画において理論課題として提起した「準周期カノニカルセルタイリングの存在証明」にも成功した。 最終年度の成果を以下にまとめる。 1)組成Al70Pd21Mo1Fe8の近傍において前年度までに見出した二種類の近似結晶に対し、組成・熱処理温度を精密に制御した作製を行ったところ、二種類の相の組成差は微小であるため、通常の方法で得た合金インゴット内に生じる微小な組成揺らぎにより二種類の単結晶が共存して得られることが分かった。また、X線回折および電子線回折により、これらの相の一方は約40Åの格子定数を持つAl-Pd-Cr-Fe系近似結晶と同型構造であり、他方は空間群P3_2(28Åx28Åx34Åの単位胞)を持つ新規の結晶が多重双晶を形成していることが分かった。一方、これまで構造解析の報告がないAl-Pd-Ru系近似結晶相(P_40相)の単結晶(前年度に作製済み)に対して、X線回折による構造決定に成功し、これがAl-Pd-Cr-Fe系近似結晶と同型構造であることを示した。 2)前年度に見出したカノニカルセルに対する自己相似変換規則が、繰り返し適用可能であることを理論的に検証し、これを用いて生成される準周期タイリングが正二十面体対称性を弱く破り、正二十面体準格子に対する指数4の超格子を内包していることを明かにした。
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