平成28年度には、延期されていた韓国の研究用原子炉HANAROでの中性子散乱実験を行うべく補助事業の延長を行っていたが、原子炉HANAROが再稼働せず、実験を行うことが出来なかった。一方、これまでの実験データの解析を進め、下記の結果・成果が得られ、学会、研究会等を通じて順次発表を行った。 1.リラクサー強誘電体PMN-30%PTで観測された波数ベクトルのベキ乗に従う中性子小角散乱強度は[110]方向に異方的に成長し、ベキ乗則から求まるスケーリング指数がTc付近でパーコレーション限界の理論値2.5に近い値になる一方、[001]方向にはスケーリング指数が1.5に抑制されている。 2.通常の強誘電体に近いPMN-37%PTでは、[100]方向に延びる小角散乱が観測された一方、リラクサー強誘電体PMN-30%PTでは、波数ベクトルの大きさ|Q|を小さくしていくと、小角散乱の強度が強い方向が[110]方向から[111]方向を経由して[001]方向へと変化していた。波数ベクトルの逆数は観測対象のスケールに対応することから、この結果は、リラクサー強誘電体PMN-30%PTにおけるマイクロドメインの平均構造対称性がスケールに依存することを示唆している。 補助事業全体を通しては、不均一なマイクロドメインの時間・空間相関におけるベキ乗則の観測、スケーリング指数によるドメイン相関の評価、緩和モード分布のMEM解析などから、本課題の目的である不均一ドメイン相関の定量的な評価に成功した。また、特に外場への応答が大きい試料では様々な結晶対称性を持つマイクロドメインが混在すること、スケーリング指数に異方性があること、平均構造の対称性がスケールに依存して変化することなどが明らかになった。本研究で見出された不均一相関の異方性を調べていくことが今後の課題である。
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