研究課題
基盤研究(C)
今年度は、リチウムイオン電池の正極材料として広く利用されているコバルト酸リチウムの電子構造をX線吸収分光によって研究し、脱リチウムによってコバルトの形式価数が変化する際に酸素2p軌道にホールが生成することを発見し、この酸素ホールがリチウムイオンの移動を助ける働きを持つことを示した。この結果を報告する論文はPhysical Review Letters誌に掲載され、リチウムイオン電池の発展に貢献する成果として注目を集めている。また、光合成で中心的な役割を果たすマンガンクラスターとの関連が指摘されているホランダイト型マンガン酸化物の電子状態をX線吸収分光によって研究し、その構造相転移の機構において酸素ホールが重要な役割を果たすことを指摘した。一方、三角格子を持つ超伝導体として注目されているイリジウムテルライドをX線吸収分光および光電子分光によって研究し、イリジウムの二量体の形成と軌道秩序が重要な役割を果たしていることを解明した。また、その超伝導状態においてイリジウムおよびテルルの巨大なスピン軌道相互作用が本質的な役割を果たすことを指摘した。これらの成果に関する一連の論文は、Journal of Physical Society of Japan誌、Physical Review B誌に相次いで発表されて、固体物理学の分野で注目を集めている。さらに、国内外で盛んに研究されている鉄系超伝導についても、X線吸収分光と光電子分光による研究を推進し、反強磁性状態と超伝導状態との相分離と鉄3d軌道の秩序との関連について成果を挙げることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
国内のPhoton Factory、カナダのCanadian light source、イタリアのElettra、スイスのSwiss light sourceなど国内外の多数の放射光施設において予想以上のビームタイムを獲得することができ、当初の研究計画以上に研究が進展した。今年度中に出版された当課題に関連する原著論文は10編を超えており、現在準備中の論文も多数あるため、来年度中にはさらに多数の重要な原著論文を発表することが期待できる。
2次電池の電極材料や光触媒の材料などエネルギー問題の解決に貢献できる遷移金属酸化物を放射光分光でさらに解明していくと同時に、特異な超伝導体など凝縮系物理学の分野で注目されている興味深い物質群について幅広く研究を展開する方針である。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 13件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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