研究課題/領域番号 |
25400357
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 和夫 東京大学, 物性研究所, 教授 (70114395)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 量子相転移 / ディラック電子 / スピンギャップ / 反強磁性 |
研究実績の概要 |
CaV4O9型格子は正方格子から格子点を周期的に1/5欠損させた格子である。この格子はダイマーボンドで覆うこともできるし、プラケットで覆うこともできる。したがって、この格子上の反強磁性ハイゼンベルグモデルは、ダイマーボンドが強い極限でダイマーシングレットの基底状態を持ち、プラケットボンドが強い極限ではプラケットシングレットが基底状態となる。二つの交換相互作用が拮抗する領域では反強磁性秩序を持ち、二つの結合定数の比を変化させたときに二度量子相転移をすることが確立されている。反強磁性ハイゼンベルグモデルはハバードモデルの1/2フィリングにおける強相関領域での有効ハミルトニアンであるから、1/2フィリングにおける相関効果を研究すればいくつか定性的に異なる金属絶縁体転移の様相が現れ、金属絶縁体転移に対するわれわれの描像が豊かになることが期待される。 このプロジェクトの中心テーマはこの金属絶縁体転移をクラスターを用いた動的平均場近似で研究することにある。動的平均場近似では、周期系の多体効果を一個のクラスターに対する不純物問題に落として、その不純物問題をとくことになる。不純物問題の解法としては連続時間量子モンテカルロ法を用いている。プラケット内のホッピングパラメータのほうが大きい場合には金属絶縁体転移は一次転移として起きる。これは、単純な正方格子で見られている振る舞いと同様である。一方、ダイマー側のホッピングの方が大きい側では、プラケット内のホッピングに対する比が2よりも大きい場合には最初から絶縁相であるが、それよりも小さいときには金属絶縁体転移が連続転移として起きている。この転移はリフシッツ転移として理解されることを明らかにした。これらの成果は強相関電子系国際会議のプロシーディングおよびPhysical Review Bの論文として公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プラケット側のスピンギャップ絶縁相とダイマー側のスピンギャップ絶縁相については、異なるクラスターを用いた計算結果となっていた。この二つの絶縁相の関係を調べるには共通のクラスターを用いることが必要である。実際に計算可能なクラスターサイズで共通のものを用いるには周期的境界条件を用いること必要がある。われわれは、その場合の計算プログラムの開発に取り組んできたが、それが完了した。8サイト周期境界条件を使ったcluster DMFTでは、プラケット側の一次転移がなまってくる傾向にある。最近、われわれの結果に触発されて1/5欠損正方格子の金属絶縁体転移を研究している中国のグループのプレプリントによれば、二つの絶縁相は点群によって区別される状態で、その条件を崩すと分離があいまいになるfragile Mott insulatorということを主張している。我々の8サイト周期的境界条件を用いたクラスター計算では、二つの相が共通の規約表現に属しており、われわれと中国のグループの結論は定性的に一致している。
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今後の研究の推進方策 |
Fragile Mott Insulatorとして特徴付けられる二つの絶縁相が熱力学極限で別の相になるのか、あるいは連続的なひとつの相で両者の間の移り変わりが連続的なクロスオーバーとなるかはむつかしい問題で、どこまで明らかにすることができるか今後検討する必要がある。われわれが開発したクラスターDMFTによる金属絶縁体転移のプログラムは、1/5欠損正方格子を含む単位胞に複数の軌道を含む系の金属絶縁体転移の研究に適応可能である。今後推進すべきプロジェクトとして、軌道縮退系の金属絶縁体転移がある。FeSiは特異な半導体として知られているが、それと同様な荷電子配置を持つFeGeはヘリカル秩序を持つ金属磁性体であることが知られている。ヘリカル秩序は、反転対称性がない結晶構造のために存在するジャロシンスキー守谷相互作用によって強磁性的な状態がひねられて実現していると考えられる。これまで開発してきた手法を用いて、多軌道ハバード模型における金属絶縁体転移に伴う磁性の出現の問題にどの程度アプローチすることができるか検討を進める。
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