研究課題/領域番号 |
25400360
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 武則 東京大学, 低温センター, 助教 (80361666)
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研究分担者 |
朝光 敦 足利工業大学, 工学部, 教授 (80311645)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / ネマティック電子相 / 熱起電力 / ネルンスト効果 / 電荷秩序 / ノイズ測定 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、抵抗率やネルンスト電圧のノイズ測定を行うことによって、電荷秩序および超伝導Vortexの観測を行い、近年盛んに議論されているネマティック電子相の性質を明らかにすることである。昨年度までに、ピエゾ素子を用いて一軸圧を加えることによって鉄系超伝導体BaFe2As2の非双晶化に成功している。本年度はこのような手法で非双晶化したサンプルのノイズ測定を行った。しかし、現在のところ、電荷密度波のようなスライディング現象は観測されていない。 一方、鉄系超伝導体の熱起電力の面内異方性についてさらに研究を進め、ピエゾ素子による変位に対する抵抗率、熱起電力の変化(ネマティック感受率)の測定を行った。抵抗率には、これまでに報告されているような、反強磁性・構造相転移に向かってCurie-Weiss的に発散するような振る舞いが見られたのに対し、熱起電力には、Curie-Weiss的な温度依存性は見られず、相転移温度以下で熱起電力の大きな変化が見られた。このことは、熱起電力が、ネマティック感受率に関係ない物理量であることを意味し、相転移温度以上で熱起電力に異方性が見られなかったことと矛盾しない。散乱時間のエネルギー依存性が無視できると仮定すると、熱起電力は散乱時間に依らない物理量であり、上記の結果は、鉄系超伝導体の反強磁性・構造相転移温度以上に見られる異方性が散乱時間の異方性によるものであるということが明らかになった。しかし、散乱時間の異方性が、ドープしたCoやFeの欠陥による異方的不純物散乱によるものなのか、ネマティック相における磁気揺らぎによる散乱時間の異方性によるものなのかは、今回の実験では区別できない。動的な電荷秩序があれば、ノイズ測定で観測できる可能性があり、今後もノイズ測定を進めて行きたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまで、鉄系超伝導体のネルンスト効果や、非双晶化した試料を用いた熱起電力の異方性の測定を行い、ネマティック相と呼ばれる電子状態のマクロな物性が明らかになってきている。しかし、電荷密度波に見られるようなスライディングによるノイズは観測されていない。これらの原因が、試料の問題なのか、装置の問題なのかはっきりさせ、ノイズ測定の技術を確立させなければならないが、2014年4月に朝光准教授が足利工大に移動したため、実験装置の大半を足利工大に移設した。ノイズ測定に必要な装置もいくつか移設したため、研究の進捗に大きく遅れが生じている。また、本年度は、装置の移設に伴う部屋の移動や廃棄物の処理で時間が十分にとれず、これも遅れの原因となっている。今後、共同利用施設の利用や、共同研究を広げることによって、研究を推進していこうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでノイズ測定が上手く測れなかった理由として、試料の問題が一番に考えられる。ノイズ測定には十分に一次元化した試料を用意する必要があるため、これまでピエゾ素子に貼り付けて非双晶化を行っていたが、新たに一軸圧制御装置を作製しようと考えている。それは、REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 85, 065003 (2014)に書かれているような装置で、ピエゾ素子を3個用い、圧縮および伸張の両方が可能な装置となっている。また、現在問題となっているピエゾ素子の温度による変形も克服できる。 また、BaFe2As2は構造相転移と同時に反強磁性転移も生じるため、純粋にネマティック相の研究を行うには反強磁性転移を示さないFeSeを用いた方が良い。今後、良質のFeSe単結晶を育成し、非双晶化した試料を用いて抵抗率および熱起電力の異方性の測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅延により実施できなかった研究を行うためと、これまでに得られた重要な結果を発表するため、補助事業期間を延長し、残額を次年度に繰り越す。
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次年度使用額の使用計画 |
研究目的をより精緻に達成するための追加実験の実施や学会参加、論文投稿などに使用する予定である。
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