研究課題/領域番号 |
25400361
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
町田 洋 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40514740)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メタ磁性 / 熱電係数 |
研究概要 |
磁化がある磁場で急激に増大する遍歴メタ磁性は、重い電子系を含む強相関電子系物質に広く見られる普遍的な現象であり、これらの系で発現する異方的超伝導や量子臨界現象などのエキゾチックな物理現象と密接に関係している。これまでに実験・理論の両面から遍歴メタ磁性の発現機構についての精力的な研究が行われてきたが、未だ統一的な見解は得られておらず、その解明は21世紀に残された物性物理学分野における重要なテーマの1つとなっている。本研究では、これまで注目されてこなかった、極低温下における熱電係数を用いた全く新しい切り口から遍歴メタ磁性の起源の解明を目指している。 本年度は重い電子系メタ磁性物質の典型例であるCeRu2Si2にRhをドープすることで、反強磁性秩序を誘起したCe(Ru1-xRhx)2Si2を対象に研究を行った。この系の特徴は、磁場下において基底状態の反強磁性秩序状態から常磁性状態へとメタ磁性転移を示し、さらに高磁場で、常磁性状態からスピン偏極した常磁性状態へとメタ磁性的クロスオーバーを起こし、ひとつの物質でメタ磁性を2度示す点にあり、重い電子系におけるメタ磁性の系統的研究を目指す本研究において最適な舞台を提供する。本研究では極低温の熱電係数測定から、それぞれのメタ磁性磁場において符合の異なる急激なゼーベック係数の増大を観測し、メタ磁性にともなう劇的な電子状態の変化を示唆する結果を得た。 この現象は、メタ磁性にともなうフェルミ面の再構成を示唆するものであり、今後この知見をもとにさらに多くのメタ磁性物質を対象に熱電係数測定を行うことで、メタ磁性現象の解明に近づけられると期待される。この成果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されるとともに、国際会議SCES 2013において講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重い電子系反強磁性体Ce(Ru1-xRhx)2Si2において発現する、起源の異なる2つのメタ磁性を極低温ゼーベック係数測定から研究し、それぞれのメタ磁性磁場で電子状態の劇的な変化を示唆するゼーベック係数の急激な増大を見出すことができた。この成果は、熱電係数からみた重い電子系におけるメタ磁性現象の典型例になり得るものであり、今後この知見をもとに重い電子系のメタ磁性現象を系統的に研究していくことにより、本課題で目標として掲げる遍歴メタ磁性の理解が進むことが期待される。加えて、基底状態に非常に重い準粒子状態を形成するYbCo2Zn20において発現するメタ磁性についても、熱電係数からアプローチし、上記のCe(Ru1-xRhx)2Si2におけるメタ磁性の振る舞いとは全く異なるゼーベック係数の異常を見出し、これまで物質によらず同一の枠組みでとらえられてきたメタ磁性の起源について、少なくともこれらの2物質では異なるメカニズムが作用している可能性を示す実験的証拠が得られつつある。したがって本研究は目的である遍歴メタ磁性の系統的な理解に向けて順調に進展している状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに重い電子系におけるメタ磁性現象に関して、Ce(Ru1-xRhx)2Si2とYbCo2Zn20の2物質について熱電係数において非常に対照的な振る舞いを見出した。このことは比熱などの他の物理量では一見、同一に見える重い電子系のメタ磁性が、異なる機構をもつことを示唆している。したがって今後、個々の物質の深い理解のみならず、多くの物質を対象とした熱電係数測定による系統的な研究をとおして、重い電子系におけるメタ磁性の分類を行っていく必要がある。そのため今年度以降は、さらに多くの重い電子系メタ磁性物質に対して、極低温下における熱電係数測定を行い、その起源の包括的理解を目指す。 一方、最近f電子が磁気双極子に自由度をもたずに四極子の自由度をもつ物質群においてメタ磁性現象が観測されており、その起源は上記の重い電子系におけるそれとは全く異なることが予想される。本研究では、このような系においてメタ磁性磁場近傍で、低磁場の100倍にも及ぶ異常なゼーベック係数の増大を見出しており、今後、四極子自由度に関連したメタ磁性の研究も並行して行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は実験室のある建物が耐震改修工事のため、実験室を学内の別所に移転する必要があった。そのため、実験時間が制約されるとともに、実験スペースの制約もあり、実験装置を本格稼働することが適わない状況にあった。このような状況よりヘリウム使用量が当初予定より下回ったため、次年度使用額が生じた。 平成26年度は、耐震改修工事完了したため、本来の実験スペースにおいて本格的に実験を行うことが可能であり、予算はその実験のための寒剤購入費に充てる。
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