研究課題
1価のアルカリ金属を除き、多くの金属の電子状態は多バンドによって形成される。近年、この多バンドの存在が物性に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。中でも強い電子相関により電子の有効質量が通常の100 倍から1000 倍にまで増大した、いわゆる重い電子系では電子相関の強さがバンド毎に異なり、有効質量にバンド間で大きな差異が生じることがしばしば起こるため、この多バンドの効果が顕著に現れる。その最も特徴的な例がマルチギャップ超伝導であり、この場合バンド毎に大きさの異なる超伝導ギャップをもつことになるが、小さなギャップをもつ有効質量の軽いバンドの寄与により準粒子の低エネルギー励起の異常な増大がもたらされることが知られている。本年は、重い電子系を舞台にした超伝導と双璧をなすもう一つの普遍的な現象であるメタ磁性に対する多バンド効果の関わりを明らかにすることを目的に研究を行った。ここでメタ磁性とは狭い磁場範囲において磁化が急激に増加する現象を指す。この現象の最も素朴な解釈は、磁場によって近藤一重項が解かれることにより磁化が増大するというものであるが、メタ磁性と付随して起こる様々な現象の統一的な理解は未だ得られていない。またこれまでに幾つかの重い電子系メタ磁性物質で電子相関にバンド依存性が存在することが明らかにされているが、メタ磁性との関連は明らかにされていない。本研究では、極低温での対角および非対角熱電係数テンソルを駆使して、重い電子系メタ磁性物質YbCo2Zn20における電子相関のバンド依存性とメタ磁性との関連を調べた。その結果、この系における磁気的な相互作用に由来した顕著なバンド依存性をもった電子相関効果の存在を低温における巨大な熱電応答から明らかにし、その効果とメタ磁性との密接な関係を見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究はこれまでに重い電子系における遍歴メタ磁性を対象に極低温の熱電係数をプローブとして研究を行ってきたが、徐々に全容が明らかになってきている。特に本年明らかにすることができたバンド依存した電子相関効果とメタ磁性との関係は、対象とした系のみならず普遍的に見出され得る現象であり、本研究の目的である遍歴メタ磁性の系統的な理解に向けて順調に進展している状況にある。
今後は遍歴メタ磁性の更なる系統的な理解に向けて、研究対象の幅を広げて研究を推進し、メタ磁性の起源の包括的理解を目指す。その上で系を特徴付けるエネルギースケールが非常に小さい重い電子系でありながら、メタ磁性を示さないアクチナイド化合物のUBe13などを対象に研究を行うことで、より多角的にメタ磁性のメカニズムの解明を進めていく。
低温環境を実現するために不可欠な寒剤が当初予定していたよりも安く購入できたため。
次年度使用予算は、本課題の最終年度である次年度に向けて研究をさらに強力に推進していくために必要な寒剤の購入費に充てる。
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