研究課題/領域番号 |
25400365
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
浅香 透 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80525973)
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研究分担者 |
阿部 伸行 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (70582005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 交差相関物性 / 構造相転移 / スピン状態転移 / 遷移金属化合物 |
研究実績の概要 |
ダブルペロブスカイトコバルト酸化物(RBaCo2O5+d)において、本研究で対象としている3a×3aの超構造を有する結晶相はこれまでにRサイト(希土類イオンサイト)がGdより小さい系についてのみ報告されていた。本研究ではGdよりイオン半径の大きい希土類を有した3a×3a超構造相(332相)を作製することを試み、R = Pr, Nd, Smの単結晶の育成を行った。これまで、いずれも超構造を有しない母体物質(112相)の単結晶育成に成功した。現在、ポストアニールにより112相から332相への相変化を試みている。様々な希土類イオンから成る332相を比較することで、結晶構造とスピン状態転移の関係を見出すことができると考えられる。 昨年度までに332相単結晶の作製に成功したR = Eu試料について単結晶X線構造解析を行った。基本的にR = Gdの332相と構造は類似している。さらにそこから見積もられる酸素量dは~0.39となり、結晶構造から期待される値(d = 0.44)と整合しない値を示す。 また、R = Euについては高温電子回折実験により、温度変化に対する変調波数ベクトルの変化を調べた。昇温により擬整合相から非整合相へ転移し、更なる昇温で整合相である1a×2a超構造相(122相)へ相転移することが分かった。構造相転移点近傍で電気抵抗率と磁化率を測定した結果、電気抵抗率の振舞が各転移点で変化することを見出した。また、磁化率については非整合332相から整合122相への構造相転移点でのみ大きな変化を示した。 加えて、透過型電子顕微鏡と偏光顕微鏡によるドメイン観察で332相から122相への構造相転移を実空間観察し、マルチスケール解析を行った。 さらに、Fe2+を有する層状無機化合物に着目し、スピン状態転移について調べた。現在までのところ、この物質群でのスピン状態転移は確認できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はスピン状態転移を示すと考えられる物質群を対象に新奇交差相関物性の開拓と物質探索を行うものであるが、目的達成のために計画したH26年度課題について多くを達成あるいは取り掛かることができた。特にさまざまな希土類イオンをRサイトにもつRBaCo2O5+d単結晶の育成に成功し、R = Euについては単結晶X線構造解析により、その結晶構造、組成の詳細をあきらかにすることができた。他の希土類イオンをもつRBaCo2O5+dについても332相の単相化を行うことで、組成―温度相図を完成することができる。これにより、結晶構造相転移とスピン状態転移の相関を明らかにすることができると考えている。 また、相転移の結晶学的側面については、結晶学的ドメインのその場観察をマルチスケールで行うことができ、その転移様式を明らかにし、重要な知見を得たと考えている。 加えて、Co以外の遷移金属からなる化合物でスピン状態転移と構造相転移が相関した系の探索については、H26年度はFe2+イオンに着目した。結果的にはスピン状態転移を見出すことはできなかったが、今後の物質探索に有益な知見が得られた。一方で、新奇交差相関物性をねらったRBaCo2O5+dの圧力効果と光誘起相転移については進展させることができなかった。そこで、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
母物質RBaCo2O5+dの単結晶が育成できているものについては、ポストアニールにより332相を成長させ、引き続き電子顕微鏡法と単結晶X線回折法により、その結晶構造を調べ、同時に酸素量dを決定する。332相の構造相転移については、上記方法に加え、偏光顕微鏡によるマクロスコピックな結晶学的ドメインの観察と、高温ラマン分光法によるミクロスコピックな相成長の計測によりマルチスケールで解析を行う。加えて、得られた332相の基礎物性を調べ、構造相転移とスピン状態転移の相関を明らかにする。 また、電子エネルギー損失分光法や電子スピン共鳴分光法により、332相におけるCoの電子状態を調べ、構造とスピン状態の相関の理解に繋げる。 RBaCo2O5+dの圧力効果と光誘起相転移については、引き続き検討を行い、新奇交差相関物性の開拓に努める。 また、H26年度はFe2+イオンに着目したが、H27年度はそれに加えてFe3+イオンも検討に加え、無機化合物中での結晶構造とスピン状態が強く相関した化合物の探索を行う。 以上により、RBaCo2O5+における磁場―構造交差相関物性の理解とそこから派生する巨大応答効果、交差相関物性、それら物性発現物質の探索に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として充てる予定であった単結晶X線回折によるその場計測ホルダーの作製費用が当初予定より、安価となった。
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次年度使用額の使用計画 |
主に合成用消耗品と研究発表にかかる費用(学会出張費、出版費)に充てる予定である。
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