研究課題/領域番号 |
25400368
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 隆介 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60221751)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 液体ヘリウム3 / 超流動 / エアロジェル / 異方性 |
研究実績の概要 |
本研究課題で据えた主要な問題は、異方性がフェルミ超流動の対称性を変える機構を、エアロジェル中超流動ヘリウム3を対象に調査することである。当研究グループによる2006年の論文での理論的提案に基づき、近年ロシアのカピッツァ研究所の実験グループ はポーラー対状態が強い一軸伸長異方性を持つエアロジェル中の超流動状態として実現することを検証した。一方、米国ノースウェスタン大の実験グループは別のタイプの一軸伸長を加えた系でポーラー対は出現せず、理論的予言と全く異なる対状態が実現していることを示した。この後者の実験を理論的に説明するために、これまでの理論で無視できると仮定されていた強相関(強結合)効果を調査し、異方的な系では強結合効果が定性的に重要であることを発見した。具体的には、異方的な系での強結合効果は異方性を逆転させる、つまり、一軸伸長させた系での振る舞いを一軸圧縮させた系でのものに変える役割を有しているが分かった。この点に留意し、一軸伸長させたエアロジェル中での液体ヘリウム3の圧力‐温度相図を検討し、上記の強相関効果が大きい系では上記米国実験グループの示したポーラー対を含まない相図の実現が説明できることを示した。この結果は最近、論文にまとめ、現在フィジカル・レヴュー誌に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の成果となった、ポーラー対の出ない実験的相図の説明は、本課題の核心部分であったが、その説明のきっかけとなるべく基本的メカニズムを研究代表者が当初理解できていなかったため、平成26年度の研究目的として据えていなかった。研究過程で着想を得たため、この問題を直接実行するプランに年度中に切り替えた結果である。モデル化としては荒いが、考慮に入れるべきメカニズムとして本質を突いた研究になっていると確信している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である平成27年度は、平成26年度に実行できた異方性がある場合の強結合効果の研究をさらに発展させ、ヘリウム4を含まない系でのエアロジェル中ヘリウム3の示すべき相図の研究を進める。多くの実験グループでのエアロジェル中ヘリウム3の実験では、エアロジェルの壁に吸着した固体ヘリウム3のスピン自由度が液体ヘリウム3に参加するヘリウム原子のエアロジェルによる散乱過程に寄与しないように、ヘリウム4を含めて、固体ヘリウム3の自由度が寄与しないようにしているが、一部のグループでの実験研究ではヘリウム4を含めていないため、液体ヘリウム3が感じる不純物散乱が磁気的なものになって、得られる相図が本質的に変わっている可能性がある。平成27年度では、この問題に研究を拡張し、本研究課題の研究成果の全体像が得られるようにする予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コンピューター購入を予定していたが、購入済みで未使用のコンピューターで代用できたため。また、次年度の外国出張が複数回になる見通しとなり、その予算を残しておくようにしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、外国出張して国際会議で研究成果を口頭発表する機会が少なくとも2度あるので、その旅費に大部分費やされると考えられる。
|