研究課題/領域番号 |
25400369
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研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
三宅 和正 公益財団法人豊田理化学研究所, その他部局等, フェロー (90109265)
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研究分担者 |
鶴田 篤史 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40397716)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子臨界価数転移 / バレンススキッピング / 電荷移動超伝導機構 / スピンゆらぎ超伝導機構 / 重い電子系 / スピン3重項超伝導 / カイラル超伝導 / 2チャンネルアンダーソン格子モデル |
研究実績の概要 |
1) PrV2Zn20, PrTi2Al20, PrV2Al20 などのノーマル状態で観測される非フェルミ液体的な種々の異常物性を、Pr(3+)イオンのもつ4極子自由度の効果を取り込んだ「2チャンネルアンダーソン格子モデル」にもとづいて統一的に説明することができた。とりわけ、電気抵抗の示す非フェルミ液体的温度依存性は、温度を特性温度でスケールすると単一の関数で表せることが分かった。 2) 重い電子系の価数ゆらぎ超伝導機構と密接な関係にある「臨界価数ゆらぎの理論」を展開した。beta-YbAlB4やTsaiクラスターからなる近似結晶物質Yb15Al35Au51に加圧した系において磁化Mに関する「T/B-スケーリング」が成立することを理論的に示した。 3) 重い電子系超伝導体UPt3では、強相関電子系金属のNMRで期待されるKorringa-Shibaの関係が破れていることが(その超伝導機構を考える上でも)残された大きな謎であった。その不純物モデルを数値くりこみ群の方法で調べたところ、U(+4)のf電子の結晶場基底状態がf2-結晶場1重項であることを仮定すると矛盾なく理解できることを示した。 4) スピン3重項カイラル超伝導体Sr2RuO4の性質を理解することを目的として、2次元正方格子上で再隣接格子の電子間に引力が働くモデルの固有角運動量・固有磁気モーメントの大きさについてBogoliubov-de Gennes方程式の数値解により研究し、その観測可能性について議論した。 5) 奇周波数超伝導状態の実現する現実的な系として、ギャップレスのスピン波励起モードをもつ反強磁性と超伝導との共存相が有力視されている。そこではそのスピン波を交換することで奇周波数ペアが偶周波数ペアに比べて安定化することが弱結合近似の範囲で分かっていたが、強結合効果まで考慮したときにもその安定性は保たれることが分かった(論文準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) PrV2Zn20, PrTi2Al20, PrV2Al20 など(Pr-1-2-20系と略称)で観測された超伝導は、Pr(3+)イオンのもつ4極子自由度のゆらぎによって誘起されることを理論的に示すことができた。また、Pr-1-2-20系のノーマル状態で観測される非フェルミ液体的な種々の異常物性は「2チャンネルアンダーソン格子モデル」にもとづいて統一的に説明することができることを示した。 2) 量子臨界価数転移点近傍にあると考えられるbeta-YbAlB4やTsaiクラスターからなる近似結晶の加圧下で観測される、いわゆるT/B-スケーリングの性質を、f電子と伝導電子の間の斥力Ufcの効果を取り込んだ「拡張アンダーソン格子モデル」および「拡張アンダーソンクラスターモデル」にもとづくモード結合理論により導いた。 3) 重い電子系超伝導体UPt3の大きな謎であったKorringa-Shibaの関係の破れを、不純物モデルではあるが、数値くりこみ群の方法により、U(+4)のf電子の結晶場基底状態がf2-結晶場1重項であることを仮定すると矛盾なく理解できることが示せた。また、超伝導の微視的機構解明へ向けて研究は進展している。 4) 銅酸化物の超伝導発現機構に関して、反強磁性スピンゆらぎと電荷移動ゆらぎの果たす相対的重要性について解明することをめざす研究により、いくつかの重要な結果が得られている。とりわけ、多層系銅酸化物高温超伝導体の温度-キャリヤードーピング相図において新しい量子臨界点が存在することを示した(論文準備中)。
以上のように、「強相関電子系における超伝導機構の多様性」に関して当初想定した研究計画が順調に達成されつつある。一方、「バレンススキップ超伝導機構の展開」については新しい結果を得る見通しがつき、「奇周波数ギャップ超伝導理論の展開」については予備的な研究が進みつつあるので、平成28年度にはこれらの研究に注力したい。
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今後の研究の推進方策 |
1)「価数ゆらぎ(電荷移動ゆらぎ)超伝導機構の展開」については、この超伝導機構と深く関連する「臨界価数ゆらぎ」の研究も進める。具体的には臨界価数ゆらぎによる種々の物理量に現れる非自明な振る舞いやホール係数、ネルンスト係数などに現れる異常な振る舞いの理論を構築する。 2)「バレンススキップ超伝導機構の展開」については、微視的機構解明をめざして、2バンド系において対遷移クーロン相互作用が低エネルギーにおいてどのように増大するかを解明するため、摂動論的くりこみ群の手法により「くりこみ群の固定点」を求め、そこからの摂動展開によりバレンススキッピングによる超伝導理論を構築することをめざす。また、バレンススキッピング超伝導の候補として有力視されているPb(1-x)Ti(x)Teにおいて、NMRの縦緩和率1/T_1Tが10Kより低温側て降温とともに増大する振舞いが観測されているが、これを理解する理論を構築する。 3)「奇周波数ギャップ超伝導理論の展開」については、これまでの研究成果を論文としてまとめる。さらに、反強磁性スピンゆらぎ機構以外の可能性について検討する。具体的には、重い電子系における電子格子相互作用や電子ガス気体における長距離クーロン相互作用のある系での奇周波数超伝導の可能性である。
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