研究課題/領域番号 |
25400370
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉岡 英生 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40252225)
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研究分担者 |
土射津 昌久 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (70362225)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子性固体 / 電荷秩序 / 量子ゆらぎ / くりこみ群 / 強相関電子系 / 酸化物 / 超伝導 / フラーレンポリマー |
研究実績の概要 |
フラーレン分子が一次元的に重合した構造を持つ擬一次元電子系フラーレンポリマーにおける電子相関効果を考察した。この物質は、カーボンナノチューブの表面に周期的な凹凸構造が現れている物質とみなすことができる。第一原理計算によって得られたバンド構造に対して電子間相互作用を取り入れ、その模型をボソン化法で取り扱い、フェルミエネルギー近傍の状態密度のエネルギー依存性や温度依存性を調べた。フラーレンポリマーでは、類似物質であるカーボンナノチューブ同様、いわゆる朝永‐ラティンジャー液体状態が実現し、上記の依存性に相互作用に依存したべき依存性が現れることがわかった。また、そのべきの大きさはカーボンナノチューブに比べ大きくなることがわかった。これらの結論は光電子分光実験によって得られた結果を説明する。 近年の銅酸化物高温超伝導体における実験技術の進展により、電荷密度波(CDW)状態の直接観測に成功し、長年未解明であった擬ギャップ領域の電子状態の解明に向けて大きな注目を集めている。これまでに銅酸化物高温超伝導体のモデルにおけるCDW状態の理論解析が数多く存在するが、いずれも実験で得られたCDW状態を再現できずにいた。本年度では、これまでに開発してきたRG+cRPA法を銅酸化物高温超伝導体の2次元d-pモデルに適用し、様々な電荷感受率の解析を行った。その結果、Aslamazov-Larkin型のバーテックス補正を通してスピン自由度と電荷自由度が強く結合することを明らかにし、スピン揺らぎが強い領域において、実験結果とコンシステントなCDW状態を理論的に再現することに初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フラーレン分子が重合してできた新しい擬一次元伝導体フラーレンポリマーに関して、電子相関効果を明らかにするとともに、関連物質との定量的な相違について議論することができた。研究分担者が開発したRG+cRPA法を二次元dp模型に適用することにより、銅酸化物高温超伝導体で観測されているCDW状態を初めて再現することができた。この結果は銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ領域の電子状態の解明における大きな進歩である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの分子性導体の研究は、不純物などのないクリーンな系を対象にして行なわれてきた。しかしながら、近年X線を照射し分子にダメージを与えることによって乱れを導入した場合の実験的研究が行なわれ、「乱れ」と「電子相関」の拮抗が議論されている。この問題に対して汎関数くりこみ群を適用し、様々な波数をもつ電荷およびスピン感受率に対する乱れの効果を解析するとともに、乱れた2次元強相関電子系の相図に関して知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者は従来の汎関数くりこみ群法を改良した新しい汎関数くりこみ群法(RG+cRPA法)を開発し、その手法を2次元強相関電子系適用して、大きな成功をおさめてきた。この手法を乱れを含む場合に拡張し、X線照射された2次元分子性導体の性質を考察する予定であり、今年度はその定式化までを行なった。次年度にこの定式化を具体的な模型に適用して数値解析を行なう予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の述べた課題に取り組むためには、膨大な数の連立微分方程式を精度良く処理できる高性能なワークステーションが必要である。次年度は、今年度の繰越金を使って、研究分担者が計算処理能力が高くメモリーを十分に搭載した高性能ワークステーションを購入する。
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