研究課題
基盤研究(C)
鉄ヒ素系化合物は化学ドープへの許容性が高い。鉄ヒ素層およびスペーサー層の各サイトに多様な化学種をドープすることができ、その結果、超伝導を発現する。網羅的かつ系統的な化学ドープが行われ、最高の臨界温度Tcは、1111 型で55 K (SmFeAsO1-xFx)、122 型で38 K (Ba1-xKxFe2As2)に達した。一見すると、化学ドープにはもはや工夫の余地はないように思えた。それに対し、私は、122型CaFe2As2にLaとPをコドープ(同時にドープ)すると、Tc = 45 Kの超伝導が発現することを見出した。本研究では、2つの化学種をコドープすることによって生じる新たな超伝導増強因子を抽出することを目的とする。平成25年度は、この系における超伝導相と反強磁性秩序相の関係を調べるため、Ca1-xLaxFe2(As1-yPy)2の電子相図を作成した。組成を系統的に変えた単結晶試料を育成し、磁化測定と電気抵抗測定を行った結果、超伝導相が、反強磁性秩序相に隣接しないことが分かった。一般に鉄系の超伝導相は反強磁性秩序相に隣接し、そのため磁性に由来する超伝導機構が有効であると議論されている。本研究の結果は、磁性以外にも、超伝導発現を媒介する機構が鉄系に存在することを示唆する。予備的ではあるが、そのヒントが構造解析から得られた。122型特有の構造相転移である格子コラプス転移の揺らぎが重要な役割を果たしている可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度の研究実施計画は、(1)良質単結晶試料の育成、(2)粉末X線回折による試料評価、(3)化学組成分析、(4)超伝導状態に相転移する臨界温度の決定と反強磁性転移の有無の検証により構成されている。それらの結果をもとに電子相図を作成し、Tc = 45 Kの超伝導相と反強磁性相の関係を明らかにすることを目的とした。全て順調に進み、研究実績欄に記述した成果が得られた。研究実績欄の最後に記載した構造解析の結果は、平成26年度の研究実施計画に含まれる。したがって、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
(1)結晶構造解析を進め、Tc = 45 Kの超伝導が格子コラプス転移(構造相転移)の揺らぎによって生じるという仮説を実証する。格子コラプス転移は面間のAs-As結合形成をきっかけにして起こる。そこで、本研究では、構造パラメータを精密化してAs-As間距離とTcの相関を調べる。(2)コドープが有効に機能する他の超伝導体を探索する。2種類の化学種を同時にドープするコドープのアイデアは独創的であるが、個々のドープ手法自体は一般に用いられる方法である。本研究で得られた知見を超伝導体開発の普遍的な手法として波及させるため、CaFe2As2以外の化合物へ研究を展開させる。
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