研究課題
基盤研究(C)
本研究では,Yb化合物の磁気フラストレーションを圧力によって制御し,その際に出現する量子臨界点(QCP)での超伝導や非フェルミ液体的挙動を探索し,それらに対する磁気フラストレーションの影響を明確にすることを目的とする。平成25年度では,比熱と電気抵抗測定の上限圧力を20 GPaまで引き上げるため,装置を改良した。比熱測定では,アンビル先端直径をこれまでの5㎜から3㎜に小さくし,アンビル先端に施した窪みの形状を改良した。その結果,10 GPaでの比熱測定に成功した。現在,試料部とアンビルとの熱的絶縁のためのダイヤモンドパウダーの最適化等を行い,20 GPaまでの比熱測定に向けて改良中である。電気抵抗測定では,アンビル材を焼結ダイヤモンド製に変更することで,20 GPaの圧力発生に成功した。関連するYb化合物の研究として,平成25年度は価数搖動系YbNiGe3の圧力誘起磁気秩序や超伝導の探索を行った。YbNiGe3は2GPa以上で超伝導が観測されるCeNiGe3と類似の結晶構造をもつ。一方,高圧下X線吸収スペクトル測定から見積もったYbNiGe3のYb価数は常圧の2.52価から8 GPaで2.8価まで急増した。したがって,8 GPa以上で磁気転移発現の可能性がある。そこで15 GPaまでの電気抵抗と磁化測定を行い,磁気転移の発現の有無を調べた。加圧すると,電気抵抗の値は増加し,その温度変化は上凸の曲線となった。このことは,近藤効果が室温以下で顕著になったことを示唆する。5 K以下の抵抗の温度変化はフェルミ液体的な温度Tの2乗に比例する振舞で再現できた。電子の有効質量の2乗に比例する抵抗のTの2乗の係数の値は10.2 GPaまで加圧すると0.85 GPaの約200倍に急増した。一方,磁化の温度変化には,磁気転移の兆候は14.7 GPaにおいても観測されなかった。
2: おおむね順調に進展している
高圧下における電気抵抗,磁化,比熱測定法の改良により,当初予定していた20 GPaまでの測定に目途が立ち, YbAgGeの第二QCPであるPC2=16 GPaでの圧力誘起超伝導や特異な臨界現象出現の可能性を探る準備がほぼ整った。また,関連するYb化合物の研究として,価数搖動系YbNiGe3の高圧下電気抵抗と磁化測定を行い,15GPaまで加圧しても磁気秩序は観測されないが,重い電子状態に遷移することを確かめた。
今後も高圧下における電気抵抗,磁化,比熱測定法を改良し,20 GPaまでのそれらの測定法を確立する。それらの方法を用いて YbAgGeの第二QCPであるPC2=16 GPaでの圧力誘起超伝導や特異な臨界現象出現の可能性を探る。第二QCPであるPC2=16 GPa付近での超伝導探索のために,まず,電気抵抗を最高圧力20 GPa,最低温度0.1 K,最大磁場6 Tまで測定する。電気抵抗測定には交流4端子法を用いる。加圧には,これまで大橋政司氏(現金沢大)らの開発した溝付きブリッジマンアンビルを用いていたが,10 GPa以上でアンビルが割れてしまう事故が多発してそれ以上加圧できなかった。さらにアンビル材を焼結ダイヤモンド製に変更することで20GPaを発生できたが,その直後アンビルが割れてしまった。アンビルを破壊せずに安定して20 GPaの圧力を発生するために,アンビルには溝を付けず,ガスケットに溝を付けるように改良する。比熱測定の上限圧力を20 GPaまで拡大するために,アンビル先端の小型化,ダイヤモンドパウダーの最適化等を行う。磁化測定の最大圧力を20GPaまで拡張するために,アンビル材をジルコニアをベースにした高強度セラミック材に変更する。圧力セルの冷却には断熱消磁冷凍機を用いる。以上の測定から,PC2=16 GPa付近での超伝導出現の有無と,抵抗や比熱に非フェルミ液体的挙動が出現するかどうかを調べる。圧力下の物性測定については,梅尾が大学院生を指導,教育しながら行う。また,関連するYb化合物として,防衛大の加藤氏が育成した三角格子系YbCuGeの研究も開始する。
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Physical Review B
巻: 89 ページ: 045112(1)-(8)
10.1103/PhysRevB.89.045112