研究課題
本年度は、電子ドープSrTiO3の熱電特性に対するMn置換効果のメカニズムを、比熱、中性子散乱実験により詳細に調べ、有意な知見を得ることができた。その一つが、比熱測定において、Mn置換により電子比熱係数が増大すること、格子比熱の調和項が抑制され非調和項が増大することが見出されたことである。前者は、熱電特性の向上の要因である熱起電力の増大はキャリア量の変化だけでなく有効質量の増大によるものである可能性を示唆している。後者は、もう一つの熱電特性向上の要因であった熱伝導度の大幅な抑制は、何らかの非調和的な揺らぎの増大によるものであることを示唆しており、我々が当初予想していたJahn-Teller活性なMn3+イオン周辺の動的な歪(動的Jahn-Teller歪)のシナリオと矛盾していない。一方、粉末試料を用いた非弾性中性子散乱実験では、散漫的な低エネルギーのフォノン励起が、電子ドープとMn置換を同時に行うときにのみ観測された。この結果もまた、我々のシナリオと矛盾していない。一方、新たな酸化物熱電材料の候補であるCuMO2(M=Cr、Al、Fe、Mn)においては、光電子分光法により粉末試料を用いて詳細な電子構造評価を行い、電子輸送特性のメカニズムに迫った。特に、この系の電気伝導性を示す物質では、その電気伝導性は酸素を介したCuイオンとMイオンの軌道の混成が起源であることが明らかになりつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は論文数では減少したが、研究成果においては予想以上の成果が得られたと考えている。特に、Mn置換した電子ドープSrTiO3の比熱は、電子比熱係数の増大、伝導電子と注入した局在スピンとの相互作用によるとものと思われる低温での増強など、予想外の結果が得られた。
まず、電子ドープSrTiO3の熱電特性に関するMn置換効果に関しては、得られた予想外の比熱の結果を詳細に解析・考察するともに、さらに単結晶試料を用いた中性子散乱実験により直接的な熱電特性向上のメカニズムの解明を行う予定である。また、さらに、詳細に置換量を制御し最大の熱電特性を示す組成を探索し、どこまでバルク試料において性能が向上するか明らかにするとともに、高温領域における熱電特性も詳細に調べる予定である。
共同研究を行っている研究所の事故による研究推進の遅れ等の理由で、研究分担者の分担金で繰越金が出た。
分担者が、消耗品と旅費に使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 2件)
Journal of Physics; Conference Series
巻: 568 ページ: 022035-1-5
doi:10.1088/1742-6596/568/2/022035
JPS Conference Proceedings
巻: 3 ページ: 014018-1-4
DOI: http://dx.doi.org/10.7566/JPSCP.3.014018
巻: 3 ページ: 017027-1-4
DOI: http://dx.doi.org/10.7566/JPSCP.3.017027