研究課題/領域番号 |
25400379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
眞榮平 孝裕 琉球大学, 理学部, 准教授 (20372807)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 相対論的バンド計算 / f電子系 / 電子相関 / 磁性 / j-j結合 / 希土類化合物 / アクチニド化合物 / 遍歴・局在 |
研究概要 |
今回、琉球大学磁性研究グループにより、希土類元素Eu化合物の純良単結晶育成に成功した。Euを含む化合物は温度や圧力などの外部パラメーターで価数が変化しやすく、2価の磁性状態から3価の非磁性状態へと変化することが報告されている。2価の状態は強磁性または反強磁性的な磁気状態が実現する。他方、3価の状態は重い電子状態が実現することが示唆されており、両物性共に4f電子が関与していることが示唆されているがそのメカニズムは理解されていない。重い電子と磁性の関係は、遍歴と局在という2重性の根本的問題に直結している。新たに合成されたEuBi_3は、価数は2価で反強磁性体を示し、de Haas-van Alphen (dHvA)効果の実験からは複数のフェルミ面の存在が予想された。局在化合物に対するアプローチである第1原理バンド計算法では、LDA+Uに代表されるようにパラメーターを導入し実験結果の説明を行うが、完全な第1原理計算法としては不満が残る。そこで、新たな試みとして次のような方法を提案した。Euのf電子が局在的でフェルミレベル近傍への寄与がほとんど無いと考えれば、Euとイオン半径が同じで、f電子がフェルミレベル近傍に存在しない原子をEuの仮想原子とするというものである。そこで仮想原子としていくつか候補があるが、今回はSrを選択し、SrBi_3として第1原理計算を実行し、フェルミレベル近傍の電子状態を調べた。その結果、理論的に求めたフェルミ面は、EuBi_3のdHvA効果の実験結果を合理的に良く説明した。 今回の仮想原子を使った第1原理計算が、f電子が局在性を示す他の化合物について、非常に有効であることがわかった。また、LDAのバンド計算において、f電子を含むΓ_8とΓ_7の対称性をもつバンドが予想に反して入れ替わる物質があるが、仮想原子を使った方法は、この困難さを原理的に回避できるので、その点においても非常に強力な解析方法であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、解析に選択したα-セリウム、γ-セリウム以外に、新しく合成されたユーロビュウム(Eu)化合物を解析に加えた。そのEu化合物に対する相対論的バンド計算において、精度良くエネルギー固有値を決定するのが難しいのではないかと予想しましたが、実際に計算を進めた結果、そのような困難さは無く、精度良く安定して電子状態を決定することができました。そのことが、今回、研究が順調に進んだ大きな要因だと考えます。 また、f電子が局在性を示す化合物に対する従来のアプローチである第1原理バンド計算法では、LDA+Uに代表されるようにパラメーターを導入し実験結果の説明を行うため、完全な第1原理計算法としては不満が残る。そこで、新たな試みとして、f電子がフェルミレベル近傍に存在しない原子を仮想原子として第1原理計算を行う方法を新たに提案した。実際にEu原子の仮想原子としてSr原子を選択し、EuBi_3をSrBi_3として第1原理計算を行いフェルミレベル近傍の電子状態の解析を実行した結果、EuBi_3のフェルミ面のdHvA実験結果を合理的に良く説明した。この新しい解析方法は、実験から得られるパラメーターを必要とせず第1原理計算できるので結果的に解析の時間が大幅に短縮された。さらに実験とは独立して、理論のみで議論・解析できるので、その点においても研究が順調に進んだ大きな要因だと考えます。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、単体Ceに対する相変化に伴う4f電子の局在性と遍歴性について解析を進める。さらに、今回新たに開発した仮想原子を用いた解析方法が、局在性を示す他のf電子化合物に対しても有効かどうか検証を進める。 有効性が確認されれば、その新しい解析方法を用いて局在性を示す化合物群に適用し、系統的に、遍歴と局在の2重性について明らかにする。 また、アクチノイド化合物群に対するバンド計算も実行し、5f電子の局在性と遍歴性についても解析を進め、4f電子と5f電子の違いによる理解を目指す。 最終目標としては、f電子の局在性と遍歴性の拮抗に起因した特異な現象の統一的描像への到達を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初から導入予定のワークステーションコンピューター(Apple社製・Mac Pro)の発売が遅れ年末となり、かつ年度内間際での納入となったため、ワークステーションコンピューターにインストールする可視化ソフトウェアなどの解析ソフトの購入・納入が間に合わなかったため、次年度へ持ち越すことになりました。 当初予定していた物品費20万円(バックアップハードディスクなど)、旅費40万円(成果発表に関わる渡航費)、人件費・謝金10万円を予定しています。次年度へ持ち越す70万円は、可視化ソフトウェア(50万円)や解析ソフトの購入に使用する予定です。
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