研究課題/領域番号 |
25400383
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
安塚 周磨 広島工業大学, 工学部, 准教授 (80382034)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 異方的超伝導 / 電子相関 / スピン揺らぎ / 電荷揺らぎ / 磁束フロー抵抗 / 超伝導ギャップ |
研究実績の概要 |
擬二次元有機超伝導体(ET)2SF5CH2CF2SO3は,常圧下において金属的に振る舞い,Tc = 5.2 Kで超伝導に転移する。この超伝導体は加圧することにより,電子相関に由来する絶縁相(電荷秩序相)が誘起されることが分かっている。Merinoらによる理論研究によれば,この系において発現する超伝導は,電荷揺らぎによる異方的超伝導であることが示唆されているが,実験的証拠はほとんど得られていない。そこで,上部臨界磁場Hc2の面内異方性を調べ,異方的(d波)超伝導状態に特徴的なHc2の四回対称性の有無を調べるととともに,磁束フロー抵抗の面内異方性を様々な磁場・電流値で調べ,d波有機超伝導体に特徴的な振動パターンの有無を調べた。 測定の結果,電流の増加とともにフロー抵抗は明瞭な4回対称性を示し、磁場の方向がb軸およびa軸付近で鋭いdip構造を観測した。同様の振舞いは,電流を固定し磁場を増大させたときにも観測された。フロー抵抗の大きさは渦糸(磁束)の速度に比例するので,b軸およびa軸付近で出現した鋭いdip構造はこれらの方向に磁場を印加したときに渦糸に何らかの強い散逸が生じていることを示唆する。このような振舞いは,d波有機超伝導体(ET)2Cu(NCS)2でも観測されている。 また,上部臨界磁場の面内異方性の測定からも,この系の超伝導ギャップがd波異方性を有することが示唆された。磁束フロー抵抗の結果は,電荷揺らぎによるd波異方性を仮定することで,これまでの解釈と矛盾なく説明できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で対象としていたd波有機超伝導体(ET)2Cu(NCS)2および(BETS)2GaCl4の磁束フロー抵抗の測定はほぼ終了し,磁束フロー抵抗と超伝導ギャップ構造および二次元性との関係についての多くの興味深い実験事実を蓄積することができた。本年度は二次元性の強い擬二次元有機超伝導体(ET)2SF5CH2CF2SO3の磁束フロー抵抗に注目し,d波超伝導体において期待される明瞭な四回対称性を見出すことができた。(ET)2SF5CH2CF2SO3の測定結果については,現在論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,二次元(2D)性が強い系ほど超伝導ギャップ構造は磁束フロー抵抗の面内異方性に影響を与えることがわかってきた。今後は2D-3D次元クロスオーバーする系にも注目し,次元性と超伝導ギャップ構造に関する知見を積極的に得ていきたいと考えている。また,可能であれば,圧力下の磁束フロー抵抗測定にも挑戦し,量子臨界点近傍の超伝導状態についても調べていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は本学での新データの蓄積と論文執筆に専念したため、学会等への参加がやや少なかった。また計画していた物質・材料研究機構(NIMS)への出張実験は、マシンタイムの都合上実験計画をやや簡素化したため,旅費の使用が計上したものよりも低くなった。来年度は,これまでの成果を国内外の会議等で発表するため,ややまとまった旅費の額が必要と考え、次年度分と合わせて使用したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はこれまでの研究成果の発表に力点を置き,具体的には、9/6-11にドイツにて行われる国際会議ISCOM2015に参加予定である。また必要に応じて、本学の実験装置を活用しながら,電気抵抗測定に必要な消耗品を補充して引き続き新データの蓄積を行う予定である。
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