(BDA-TTP)2SbF6は,有機超伝導体の中では比較的高い温度で超伝導転移を示し(Tc = 7.5 K),STM測定によりノード方向まで決定された数少ないd波の有機超伝導体である.量子振動の実験から決定されたサイクロトロン有効質量はm* = 12.4 m0 (m0は自由電子質量) もの大きな値を示し,この系が多体相互作用による繰り込みを強くうけた強相関電子系であることを示唆している.超伝導状態については,上部臨界磁場の温度依存性から,T <6 Kではジョセフソン結合した層状二次元超伝導体,T >6 Kでは異方的な三次元超伝導体として振る舞うことが分かっている.これまでの磁束フロー抵抗の研究から,二次元性が強い系ほど磁束フロー抵抗は超伝導ギャップ構造の異方性に影響されることが分かってきたので,次元性と磁束フロー抵抗の関係を調べるために,T = 3.5 KおよびT = 6.0 K において(BDA-TTP)2SbF6の上部臨界磁場および磁束フロー抵抗の面内異方性を調べた.測定の結果,上部臨界磁場の面内異方性は,T = 6.0 Kではフェルミ面の異方性を反映した2回対称性,T = 3.5 Kでは超伝導ギャップ構造を反映したと考えられる明瞭な四回対称性を見出した.実際,この結果は第一原理計算で予測されているスピン揺らぎによるd波対称性と整合する.磁束フロー抵抗の測定結果については現在検討中である。
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