研究課題
S=1/2のスピン液体候補物質である有機磁性体κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の磁性を、キャンティレバー法により、広い温度・磁場範囲で精密に系統的に測定した。磁化を磁場で割って定義した帯磁率は、10T以上の高磁場では、5K程度から30mKの極低温まで温度に依らず一定値をもつ。これは、この温度・磁場領域で、スピンが秩序を持たずに液体状態にあることを明確に示している。ところが低磁場では、磁化率は低温で増大し、発散する傾向を持つことを明らかにした。低磁場になればなるほど、この発散傾向は強い。この振る舞いは温度のべき乗で与えられる。また、50mKでは磁場変化も発散的振る舞いを示し、やはり磁場のべき乗で与えられる。これらの結果から、磁化率の振る舞いが、量子臨界発散現象を記述するスケーリング則に従うことを見出した。すなわち、このスピン系はゼロ磁場極低温領域での秩序相(おそらく反強磁性状態)に向かって、量子臨界発散を示す系であることが明らかとなった。この臨界発散域は温度が高くなるにつれて広い磁場範囲で観測できる。それ以外の領域(低温強磁場)では、非発散領域となる。この非発散領域がスピン液体状態に相当する。このような磁場温度相図はこの系の量子スピン状態において、重要な知見を与えるものである。
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