研究課題/領域番号 |
25400392
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子エンタングルメント / 朝永・ラッティンジャー液体 / 量子反強磁性体 / バレンス・ボンド / 国際情報交換 アメリカ合衆国 / 国際研究者交流 フランス |
研究概要 |
量子多体系の基底状態を特徴付ける新たな観点として、エンタングルメントが近年注目されている。基本的な量として最も良く用いられるのはエンタングルメント・エントロピーであるが、より詳細な情報を提供するエンタングルメント・スペクトルについても議論されている。エンタングルメントを考える際には系を仮想的に2つの部分に分割するが、その境界が並進対称性を持つときにはエンタングルメント・スペクトルを運動量の関数として分散関係を考えることができる。仮想的な境界に関するエンタングルメント・スペクトルと、物理的な境界に現れるエッジ状態のスペクトルには広く対応関係が成立すると信じられているが、その成立範囲については未解明の点が多い。今回、我々は2つの結合した朝永・ラッティンジャー流体の間のエンタングルメント・スペクトルを研究した。その結果、特にギャップが部分的に閉じている場合、エンタングルメント・スペクトルに運動量の平方根に比例する特異な分散関係が出現することを見出した。このような分散関係は物理的なエッジ状態には通常出現することはなく、エンタングルメント・スペクトルとの一般的な対応関係の見地からも重要な結果である。 量子反強磁性体におけるエンタングルメントは、2つのスピンのつくるシングレット対(バレンス・ボンド)の観点からも理解できることが提案されている。一般のシングレット基底状態は、多くのバレンス・ボンド状態の重ね合わせで書けるが、このときのバレンス・ボンドの分布はエンタングルメントの観点からも重要である。今回、我々は一般次元の(超)立方格子上のハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態について、副格子間のバレンス・ボンドの分布と相関を場の理論的に導出することに成功した。また、その理論的予言を大規模な量子モンテカルロシミュレーションによって精密に検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画では、これまで理解があまり進んでいなかったギャップレスな量子多体系におけるエンタングルメントの解明を目的としていた。本年度の研究によって、2つの結合した朝永・ラッティンジャー液体について、ギャップレスな自由度が部分的に残っている場合にはこれまで予想されていなかった特異な分散関係が現れることを見出した。また、ギャップレスの励起を持つハイゼンベルグ反強磁性体の基底状態について、バレンス・ボンドの分布と相関を精密に決定することに成功した。これらは予想外の発見であるが、本計画の目的に大きく資するものである。
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今後の研究の推進方策 |
エンタングルメントと関連する量として、ある基底で量子状態を展開したときのシャノン・エントロピー(あるいは対角的エントロピー)が近年注目されている。シャノン・エントロピーも手掛かりにして量子多体系におけるエンタングルメントの解明を進めたい。 また、本年度の研究で、「自明な相」の間にも対称性によって保護された一種のトポロジカルな量子相転移が起こりうるという証左を得た。この量子臨界現象についてもエンタングルメントの観点からの研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
量子スピン梯子系・チューブ系におけるエンタングルメントの計算をコードの改良により予定より簡単に完了することができた。このため、これらの系におけるエンタングルメントの数値計算にあてる予定だった費用を、新たに研究が展開中であるシャノン・エントロピーの計算、および対称性によって保護された量子臨界現象の解明のため次年度に活用する。 シャノン・エントロピーに関する共同研究のため、CEA SaclayのGregoire Misguich博士を招聘または先方に研究者を派遣する。
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