研究概要 |
多添字直交多項式等の新しい直交多項式で記述される解ける量子力学模型についての知見を得る事が本研究の目的である。 Darboux変換を用いて擬仮想状態と固有状態を取り除いた量子力学系の関係を示した論文(雑誌論文1)と,有限個の離散固有状態を持つ量子力学系の仮想状態・擬仮想状態を与えて系の変形を議論した論文(雑誌論文2)を昨年度末に投稿したが,編集者とやり取りをし論文を改善して,掲載となった。 通常の直交多項式は3項関係式を満たしその逆も示されるため,多添字直交多項式は3項関係式を満たさない。M-添字の多添字直交多項式が(2M+3)-項関係式を満たす事を,Jacobi, Laguerre, Wilson, Askey-Wilsonの場合について,Darboux変換の関係式を巧妙に用いる事で示した(雑誌論文3)。多添字直交多項式は仮想状態をDarboux変換を用いて取り除く事で得られ,取り除く仮想状態の集合とDarboux変換で得られる系の関係は1対1ではなく,多対1である事の例が知られていた。擬仮想状態と固有状態を取り除いて得られる系の等価性を利用する事により,Jacobi,Laguerre, Wilson, Askey-Wilsonの場合の多添字直交多項式について,取り除く仮想状態の集合間の等価性を明確にした(雑誌論文6)。この2つは多添字直交多項式の基本的な性質を明らかにしたもので重要である。 解ける系の変形方法としてDarboux変換の他にAbraham-Moses変換がある。これは逆散乱法の中で発展した方法であるが,代数的な方法で定式化する事により有限区間で定義された系にも適用できる事を示し,その種関数として一般化された仮想状態波動関数を様々な模型に対して与えた(雑誌論文4)。雑誌論文1番目の結果が虚数シフトの離散量子力学系に対して拡張できる事を示した(雑誌論文5)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多添字直交多項式等の新しい直交多項式で記述される解ける量子力学模型についての知見を得る事が本研究の目的である。先ずは多添字直交多項式そのものが持つ性質について明らかにしておく事が重要である。(通常の0次式から始まる)直交多項式は3項関係式を満たし,逆に3項関係式を満たす多項式は(通常の)直交多項式になる事が知られている。多添字直交多項式は0次式から始まらないため,3項関係式を満たさない事はすぐに分かるが,それでは3項関係式に代わる様な性質を持っているかどうかが大きな問題であった。雑誌論文3においてこの点を明らかにし,M-添字の多添字直交多項式が(2M+3)-項関係式を満たす事を示した。多添字直交多項式は仮想状態をDarboux変換を用いて取り除く事で得られる。仮想状態にはタイプI,IIがあり,それらを混在させて取り除く場合には異なる仮想状態の集合間に等価性が成り立つ場合が知られていた。雑誌論文6において,Jacobi, Laguerre, Wilson, Askey-Wilsonの場合の多添字直交多項式について,この等価性を明らかにした。 交付申請書の研究実施計画に,Askeyスキームの下位の多項式に対して例外・多添字直交多項式の構成が可能かどうかを調べる,と書いたが,これに関しては未だ研究を進めていない。この話題は丁寧に手間をかければある程度までは研究が進む話で,一方上で述べた2つの結果は上手いアイディアが得られて初めて得られる結果で,多添字直交多項式の基本的な性質を明らかにした重要な結果である。実施計画通りにはなっていないもののこの点は予想以上に研究が進展したので(1)という評価をした。研究実施計画には,擬仮想状態と固有状態を取り除いた系の等価性を虚数シフトの離散量子力学系で成り立つかどうかを調べる,という話題も書いてあったが,これについては雑誌論文5として解決した。
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