研究概要 |
ランダム行列の普遍性に対する理解を深めるため, 特に, ランダム行列の積に着目して研究を進めた. 具体的には, N+L 次のランダムユニタリ行列の L 個の行と L 個の列を除くことによって得られる N 次の行列 を M 個掛け合わせた積について, 固有値の分布を考え, N が大きい極限における固有値相関関数の漸近形を厳密に評価した. 非エルミートランダム行列の積に対する従来の結果と同じ評価が得られたことから, それらの漸近形は普遍的なものであると考えられる. ランダム行列の方法は, インターネットや人間関係などのつながりを記述すると考えられている複雑ネットワークの理論にも適用できる. 複雑ネットワークの特徴としては, 次数( 1 つの頂点から出る辺の数)がべき分布する性質(スケールフリー性)が重要である. 今年度は, ネットワークの辺が向きづけられている場合について考え, 外向き次数( 1 つの頂点から外向きに出る辺の数)と内向き次数( 1 つの頂点に内向きに入る辺の数)の分布がいずれもべき分布になるモデルを構成した. このモデルに対しては, 対応する隣接行列は非対称行列となり, 隣接行列の特異値分布に対して場の理論的な方法(レプリカ法)を適用することができる. 特に, 平均次数が大きい極限においては, 特異値分布の振る舞いを解析的に評価でき, 特異値分布のすそ野の部分については, べき分布が得られる. さらに, ネットワークの辺が向きづけられている場合と向きづけられていない場合を連続的につなぐモデルも構成し, 対応する隣接行列の特異値分布についても考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ランダム行列の普遍性については, 非エルミート行列の普遍性についての研究に進展がみられ, また, 複雑ネットワークについては, 辺が向きづけられたネットワークについての研究の土台を築くことができた.
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今後の研究の推進方策 |
ランダム行列の普遍性の研究と複雑ネットワークの研究を互いに関連づけて進展させることが, 今後の課題である. 特に, 辺が向きづけられたネットワークの隣接行列は非エルミート行列になるので, ネットワークへの応用を視野に入れて, 非エルミートランダム行列の普遍性の理解を深めていきたい.
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