従来,複数の自励振動子を含む同期現象の基本的な研究は位相空間での理解がほとんどであった。本研究の動機は「同期する複数の振動子が存在するとき,同期振動を維持するエネルギー源は何処にあるか?」という素朴な疑問からである。熱音響気柱同期現象をEnergy Flux Density(音響強度)の測定によりPower Source(音源)を明らかにし,熱音響デバイスにおける振動音抑制の新たな手法を確立することが本研究の目的である。これらの研究目的はすでに平成25年度と26年度に達成され複数の論文に掲載された。その結果は,たとえ周期的外力が自励振動子を引き込み,あるいは抑制したとしても同期現象を維持するエネルギー源は常に自励振動子側にあるという意外な実験事実であった。 今年度は上記の事実を踏まえて温度勾配のある共鳴管のQ値を測定することによって周期的外力の役割を実験的に調べてみた。気柱共鳴管に温度勾配をつけ内部の気体を平衡状態から遠ざけていくと,管内の気柱は不安定となり自発的に振動しだす。熱音響自励振動としてよく知られた現象である。温度勾配のある共鳴管にスピーカーを取り付け内部の気柱が自励発振するための温度勾配と周波数をQ値の測定を通して調べてみた。Q値は圧力と流速の同時測定により(周波数応答曲線からではなく)定義に基づいて決定した。結果的に,温度勾配を増加していくとQ値は発振を意味する無限大や負の値をとり,気柱管が負性抵抗を示すことが明らかになった。このことは同期現象で結論された「音源は自励振動子側(温度勾配)にある」という事実をQ値の観点から支持するものである。
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