本年度は、サイト内部での状態数が多い格子統計モデルについて、角転送行列繰り込み群によって求められるエンタングルメント・エントロピーのスケーリング解析を行った。一般に、サイト自由度の大きな2次元統計モデルの場合、いわゆるKT転移が現れることも稀ではなく、このような模型を双曲的に曲がった平面上に配置した場合、どのような相転移現象が観測されるか、不明な点が多い。中には状態数が5以上のクロック模型のように、有限な温度領域で臨界状態が実現されるものもある。これらの系についてエネルギースケール変形の影響を調べる準備として、まず平面格子である正方格子上での、エンタングルメント・エントロピー解析から着手した。正4面体模型と正8面体模型を補間する「切頭4面体模型」の解析を継続して行って来た結果として、いずれの相境界においてもエンタングルメント・エントロピーに異常が現れ、特に4面体の対称性が卓越している場合には、KT転移と矛盾しない振る舞いが得られた。6状態クロック模型についても、同様の解析を行い、KT転移を仮定した有限サイズスケーリング解析の結果として、相転移温度が2桁ほどの精度で求められることがわかった。今後はこれらの系について、双極平面上での実空間繰り込み群による解析を進めて行きたい。新しい研究の芽として、ランダム系にも着目している所である。例えば代表的な±Jイジング模型の場合、ランダムネスに起因するエネルギースケールの階層が存在すると考えられ、その熱平衡状態が示す相転移は非自明である。数値繰り込み群を用いたこれまでの経験を活かし、±Jイジング模型に適応したTEBD手法の計算アルゴリズムを完成し、ランダム系のエンタングルメント構造を探る基盤を確立した。
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