研究課題/領域番号 |
25400409
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
渡辺 一之 東京理科大学, 理学部, 教授 (50221685)
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研究分担者 |
胡 春平 東京理科大学, 理学部, 助教 (00512758)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 時間依存密度汎関数法 / 電荷移動励起 / 電子線回折 / イオン散乱 / プラズマ振動 / 有機分子 |
研究概要 |
研究項目、1. 炭素ナノ構造の電子・イオン散乱ダイナミクス、2. 電界電子放射顕微鏡像(FEM)シミュレーション、3. 有機分子電荷移動励起状態の決定、について報告する。いずれも時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を用いる。 1. グラフェンフレークに電子波束を照射するシミュレーションを行ったところ、原子の局所構造と周期性を同時に反映した低速電子線回折(LEED)像が得られた。このシミュレーション像は最近のNanoLEEDと呼ばれる実験と比較できるものである。また今回の電子照射は、同時にプラズマ振動を励起し、電子エネルギー損失分光実験データを一部再現していることがわかった。以上の結果は論文に投稿中である。 2. キャップされたカーボンナノチューブ(CNT)に強電界を印加することによって生じる放射電流(FEM)分布像を求めた結果、像に五員環配置の対称性を反映した五回対称性と六回対称性が明瞭に現れた。キャップに水素が吸着した場合、そのFEM像の対称性は消失した。これらは実験結果を合理的に説明することができ、FEM像からCNTのカイラリティーを予測できることを示した。結果は論文で発表した。 3. 条件付自己無撞着法(ΔSCF法)で電荷移動励起状態を求める過程で変分崩壊が度々起こり計算が収束しないという問題を克服するために、ΔSCF法の代わりに1次の摂動法を用いて同様な一電子励起状態が作れることが先行研究で報告されていた。本研究では先行研究の手法を一部改良しそれを第一原理計算プログラムABINITに実装し、1次の摂動法による一電子励起状態の再現計算および中間電子励起状態への拡張計算を行った。変分崩壊しない系でΔSCF法と一致する結果が得られることを確認した。この成果は3月の日本物理学会で発表した。また、中間励起状態に基づくTDDFT修正線形理論の計算準備も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究項目1.のうち、電子散乱とLEED解析については、当初の計画通りに成果が得られ順調である。引き続き、非周期構造散乱体、透過型電子顕微鏡(TEM)像、2次電子放出機構の解析へと発展研究に向かう。 一方、イオン散乱ダイナミクスについては、ネオンイオンとアルゴンイオンがグラフェンに衝突する際のエネルギー移動とグラフェン構造の変化についてのデータは蓄積されてきたが、透過・反射係数とそのエネルギー依存性についての解析はこれからであるので、当初計画より若干遅れ気味であるが、H26年度前半には解析結果をまとめる予定である。 研究項目2.については、当初の計画通りに、CNTのキャップ原子構造を反映したFEM像をシミュレートすることに成功した。H26年度は当初の計画通り、FEM像に及ぼすキャップの曲率依存性、二重CNTのFEM像をシミュレートする。 研究項目3.の H25年度の研究目標は、変分崩壊現象に対しては、まず先行研究の1次摂動法と結果を再現し、その方法を我々のTDDFT法による解析に応用できるように平均電子状態を作る方法を確立することであった。現在は先行研究の方法をABINITプログラムへの導入を完了し、比較計算を行った。また、非整数占有数を導入することで中間励起状態も摂動法により作ることができることを確認した。ただし、先行研究の方法そのままでは計算精度が得られなかったので、摂動に寄与する状態数(バンド数)を増やすことで精度を改善することができた。計算精度を上げるためには多くのバンド数を含める必要があるので、今後は計算コストを削減する対策を講じる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目1.については 準結晶ナノ構造のNanoLEED像、透過型電子顕微鏡像、2次電子放出機構の解析に向かう。いずれの数値解析に対しても、計算領域を広げることと領域壁からの電子散乱を防ぐための吸収(複素)ポテンシャルを組み込む必要があるので、それについてはすぐに取り組む。グラフェンへのイオン散乱の数値解析では、斜め方向のイオン照射シミュレーションも続けて行うことで、イオン散乱・透過現象を反射係数と吸収エネルギー量で整理し、それらとグラフェンの構造変形と電子励起の相関を明らかにする。 研究項目2.では、FEM像に及ぼすキャップの曲率依存性、二重CNTのFEM像をシミュレートし実験との比較検討を行う。発展研究として、当初の研究計画には無かったが、FEMとは逆向きの強電界とレーザーをナノ探針に照射することで生じるレーザー刺激電界蒸発現象のTDDFTシミュレーションに着手する。これは、3次元レーザー刺激アトムプローブトモグラフィー(3D La-APT)の機構解明のためのための基礎研究となる。 研究項目3.については、 まず、開発した平均電子状態の摂動法計算コードにバグがあるかを綿密にチェックする。バグフリーを確認後、計算コストの大幅削減のために摂動式の計算にSternheimer法を導入する。平均電子状態の効率な計算ができ次第、TDDFT 修正線形応答理論を用いて様々な有機分子系の電荷移動励起のエネルギーを系統的に評価する。具体的には、官能基の種類や個数の増減により励起エネルギーの変化、電子供与体の軌道と電子受容体の軌道の重なりあるいは電荷移動の距離と励起エネルギーの相関関係を解明する。その結果から吸収波長領域の広い有機分子の設計方法を明らかにしたい。
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