研究課題/領域番号 |
25400410
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山中 由也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10174757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子輸送方程式 / 冷却原子系 / Thermo Field Dynamics / 場の量子論 / 南部-Goldstoneモード / 自発的対称性の破れ |
研究概要 |
基礎的内容で予想以上に大きな進展を得ることができた。我々の量子輸送方程式は非平衡Thermo Field Dynamics(TFD)で繰り込み条件から導出するわけで、TFDの深い理解は極めて重要である。TFDでは自由度を二重化されるが、それは混合状態期待値を純粋状態期待値で表わすためと通常は理解されている。我々は熱的状況下の古典力学でも自由度の二重化が必要であるというGalleyの理論を場の量子論に適用することによって、混合状態の概念なしに、非平衡TFDを導出したことが一つ目の成果である。二つ目は、自発的対称性の破れに伴うゼロモードに関して、これまで理論的には秩序パラメーターの位相が量子的に拡散してしまうという問題があった。この問題に対して、それはゼロモード演算子の線形項のみを考慮するために生ずる欠陥で、非線形項まで取り入れれば、位相の量子拡散はないということを明らかにした。この研究により、Bose凝縮体のある量子輸送方程式を定式化する際の最大の困難を克服したと言える。 自発的対称性の破れのない冷却原子系の量子輸送方程式については、主に数値計算に基づく研究を進展させた。具体的には、二重井戸モデルや一次元光学格子モデルに対して、熱平衡への緩和が調べられ、自己エネルギーの虚部や実部の高次補正を取り入れることが必須であることを示した。 また、量子輸送方程式適用の前の準備として、二次元、三次元光学格子中の冷却原子系のBose-HubbardモデルやFermi-Hubbardモデルで真空及び有限温度の理論的解析を進めた。特に、Fermi原子の粒子移動の解析を行った。また、自発的対称性の破れのある例として、Bose-Einstein凝縮中にダークソリトンが存在する系に対して、ゼロモードをきちんと取り入れた定式化を行った。その結果、ゼロモード由来の動的不安定性が生ずることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の研究計画で挙げていた項目は4つあった。(1) 非マルコフ性を持つ量子輸送方程式の数値計算、 (2) 凝縮体がある場合で、ゆっくり変化する系の解析、(3) 光学格子ポテンシャル中の平衡系の解析、(4) 凝縮体中にダークソリトンがある場合のゼロモードを含む定式化と解析、である。(1)、(3)、(4)については予定通り進捗し、結果の一部は論文で発表している。(2)の定式化はなされているが、数値計算で明確な結果を得る結論には至っていない。 実績の概要にも書いたように、基礎的な内容で二つの大きな成果を得ることができた。一つは、TFDの自由度二重化に新たな根拠づけがなされたことである。今後、量子輸送方程式を得るために置く繰り込み条件にとっては重要な事柄である。二つ目は、位相変換対称性の自発的破れに付随するゼロモードの困難を克服したことである。困難とは秩序パラメータの位相が量子拡散してしまうことで、これまで理論的に時間発展を追えるのは拡散が進まない極短時間に制限されていた。今回その制限がなくなったことで、凝縮体のある場合の解析の信頼性が増すことになる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は研究計画に沿って順調に研究が進んだので、平成26年度も当初の計画を進めることが基本である。その際、以下のような視点も加えたい。 量子輸送方程式の数値計算がその計算コストの大きさ故に、粒子個数の小さい系に限られていた。この方面での改善は、実験と理論の比較のためには不可欠である。現在、数値計算のアルゴリズムの工夫を考えている。また、量子輸送方程式中には、時間スケールの異なる時間依存性が存在し、その整理を行っている。こうしたことを組み合わせて、より大きな系の数値計算を実施する予定である。 凝縮体がある場合の研究について、ゼロモードの取り扱いに関する研究で進展したので、量子輸送方程式を含む連立方程式系の数値計算がより現実的な意味を持つことになる。今後の研究の中心としたい。 位相変換対称性の自発的破れに付随するゼロモードについては、量子座標とその共役な運動量に対するハミルトニアンが、量子拡散をもたらす自由粒子型ではなく、非線形項まで取り入れた結果束縛状態を与えるものになったことによって、従来の困難が回避された。一方、束縛状態を持つという事実から、ゼロモードセクターの量子力学的状態には基底状態の他に励起状態の存在も予言される。この励起状態が物理現象に与える影響を調べることは我々のグループの極めて独創的で重要な研究課題であり、取り組んでいきたい。一つの応用としては、原子核アルファクラスターモデルに我々の場の量子論に基づく定式化を適用すれば、そうしたゼロモード由来の励起状態が現れることが期待され、現実の原子核のスペクトルとの比較を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
プリンター用トナーの購入が必要なかったことと、外部研究者への謝金が発生しなかったために、100,000円次年度に繰り越した。 国際会議 The 24th International Conference on Atomic Physics August 3-8, 2014 (Washington, D.C. USA)の参加の旅費の一部にする予定である。
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