まず第1の研究テーマとして、エンタングルメントに関係した研究を行った。最近いわゆるBellの不等式の非常に精密な検証が世界の3カ所でおこなわれ、アインシュタインに始まる局所実在論の哲学は量子力学には適用できないことが、予想されたように、明らかになった。しかし、エンタングルメントの研究は量子力学の枠内でもinseparabilityという概念と関係してその検証とか応用が重要である。Bellの不等式は量子力学の混合状態に適用すると、Werner状態と呼ばれる状態が存在するように、一般にエンタングルしているかどうかの判定ができない。われわれは、過去に理研の酒井英行博士が2個の陽子を用いて行った実験にヒントを得て、2個のスピンの相関で2つのスピンの相対的な角度を固定して、2つのスピンを任意の角度で測定するという簡単な実験で混合状態の場合のエンタングルメントの測定ができ、その精度はBellの不等式を上回り、Werner状態もテストできるということを示した。 第2のテーマとしては、古典的な情報理論と不確定性関係の関係を明らかにした。古典的な情報理論のではShannon-Nyquist-染谷のsampling定理が基本的であるが、これは条件付き測定に伴う不確定性関係の表現であることを世界最初に示した。とくに、逆説的ではあるが、古典情報理論では不確定性関係を破る精度の測定が十分な情報量を与え、不確定性関係を満たす場合は十分な情報量を与えず、いわゆるCompressed sensingという推量の処方を必要とすることを示した。不確定性関係は、古典情報理論と量子力学の両方の測定で基本的な役割を果たしていることが明らかになった。 第3のテーマでは、格子ゲージ理論でのgradient flowという概念をより広い場の理論へ一般化できることを示した。
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