研究課題/領域番号 |
25400417
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
越野 和樹 東京医科歯科大学, 教養部, 准教授 (90332311)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子光学 / 導波路QED / 量子情報処理 |
研究概要 |
超伝導量子ビットを人工原子,伝送線路中のマイクロ波を電磁波モードとして用いる「回路量子電気力学系」において,着衣状態エンジニアリングの手法により,励起状態からの二つの崩壊レートが等しい「インピーダンス整合Λ系」を実装する方法を理論的に提案した.考察の対象とするのは,ドライブされた超伝導量子ビット・共振器・半無限マイクロ波伝送線路の結合した系である.量子ビットと共振器との離調が大きい「分散結合領域」では,分散シフトのために共振器周波数が量子ビットの状態に依存する.よって,量子ビットを外場によりドライブしドライブ周波数での回転座標に移行すると,ドライブ周波数を適切に選ぶことにより,量子ビット-共振器結合系の最低四準位が「入れ子型」の準位構造をとる状況が生じる.それらを下から状態1,2,3,4と呼ぶことにする.弱ドライブ極限では,四準位系の輻射崩壊は4→1,3→2方向におこる.一方,強ドライブ極限では,パリティ選択則により4→2,3→1方向におこる.つまり崩壊経路がドライブ印加によって逆転することがわかる.よって,ドライブ強度を適切に選択することにより,3→1遷移と3→2遷移(または4→1遷移と4→2遷移)の崩壊レートが揃う状況が生じ,1,2,3あるいは1,2,4の三準位を「インピーダンス整合Λ系」として活用できる.半無限伝送線路から入射されるマイクロ波に対するΛ系の光学応答を計算し,インピーダンス整合条件下においては,反射波振幅が完全に消滅し,入射波は一回の反射により完全に周波数下方変換を受けることを示した.これらの結果は,入射された単一光子が決定論的にΛ系のラマン遷移を誘起し,その量子状態をスイッチすることを示唆するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の目標であった,ドライブされた量子系による「インピーダンス整合Λ系」の実装理論を確立することができた.また,それらは既存の超伝導回路QEDデバイスに立脚しているため,その実証実験も比較的行いやすいと期待される.
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今後の研究の推進方策 |
現在,光領域においては光電効果を利用した単一光子検出技術が確立されているが,単一光子のエネルギーが光領域に比べ圧倒的に小さいマイクロ波光子にはその方法が使えない.しかし,本年度に提案した手法は,マイクロ波領域の単一光子がメゾスコピックな超伝導量子ビットの量子状態を決定論的にスイッチすることを示唆しており,光子の有無を量子ビットの状態へ転写できることを意味している.よって,近年開発が進んでいる,パラメトリック振動子を利用した量子ビット読み出しと併せることにより,マイクロ波単一光子検出への応用が期待できる.インピーダンス整合Λ系の光学応答理論は,現在,古典光入力に対するものに限定されていたが,これを一般の量子光状態(単一光子を含む)へと拡張し,既存デバイスを活用したマイクロ波単一光子検出の可能性を検討してゆく.
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次年度の研究費の使用計画 |
国内における学会が関東近辺で多く開催されたため,旅費としての支出が想定より少なく済んだため. 本年度の旅費として使用する.
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