平成25年度には,超伝導量子ビットを人工原子,伝送線路中のマイクロ波を電磁波モードとして用いる超伝導回路量子電気力学系において「着衣状態エンジニアリング」を提唱し,励起状態からの二つの輻射崩壊レートが等しい「インピーダンス整合Λ系」を実装する方法を理論的に示した.平成26年度には,着衣状態エンジニアリングを応用した「マイクロ波単一光子検出器」を理論的に提案した.マイクロ波単一光子検出は量子情報科学のみならず宇宙物理学においても重要な基盤技術であるが,光子エネルギーが可視光領域と比較して極めて小さいためにこれまで達成することができていなかった.本提案に基づく実証実験(arXiv:1601.05513)では,単一光子検出効率66%の達成に成功しており,世界初のマイクロ波単一光子検出技術として認識されるに至っている.検出エラーの主要因は量子ビット状態測定中の状態崩壊であるため,量子ビット寿命を改善することにより,単一光子検出効率を更に向上させることができる. この光子検出器は「時間ゲートモード」の単一光子検出器であり,主として光子パルスが検出器に達する時刻を予め知っている状況下において効力を発揮する.平成27年度には,そのような時間ゲートを必要としない「連続測定モード」のマイクロ波光子検出器を理論面から開発した.具体的には,超伝導量子ビットに分散的に結合させる共振器を二つに増やし,片方を光子捕獲のために,もう一方を量子ビット状態の連続測定に利用する方法を提案した.本デバイスでは,現実的な量子ビット寿命のもとでも効率90%,バンド幅10 MHz程度の達成が期待できる.
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