研究課題/領域番号 |
25400418
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大橋 洋士 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60272134)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フェルミ原子気体 / スピン軌道相互作用 / 人工ゲージ場 / p波対振幅 / BCS-BECクロスオーバー |
研究実績の概要 |
本年度は、人工ゲージ場で作り出される反対称スピン軌道相互作用について、前年度の1成分型スピン軌道相互作用に対するBCS-Leggettの理論を2成分型、3成分型の場合に拡張、それぞれの場合について、s波超流動状態中に誘起されるp波対振幅の強度を絶対零度のBCS-BECクロスオーバー全域で明らかにした。1成分型スピン軌道相互作用ではpolar型のp波対振幅が誘起されるのに対し、2成分型ではplanar型、3成分型ではBW型のp波対振幅が誘起されること、また、2成分以上の場合は、スピン軌道相互作用強度が強くなると弱結合BCS側でp波対振幅が大きくなることを明らかにした。これは、1成分型の場合、秩序パラメータや全凝縮粒子数がスピン軌道相互作用強度に依存しないため、弱結合BCS側ではこれらの物理量自体が小さいのに対し、2成分以上ではスピン軌道相互作用によるバンド構造の再構成により、弱結合領域でも2体束縛状態の形成が可能となる結果、秩序パラメータや全凝縮粒子数が大きくなることに因る。 本年度は、更に、絶対零度で調べた全てのスピン軌道相互作用の場合について、超流動転移温度をガウス揺らぎの理論に基づいて計算した。上述のように、2成分型、3成分型のスピン軌道相互作用では、通常は超流動転移温度が低い弱結合BCS領域で、誘起されるp波対振幅が大きくなるが、計算の結果、2体束縛状態の形成により、超流動転移温度もこの領域で著しく増大することを見出した。これにより、現在の実験技術の範囲でも本研究のアイデアが実現可能であることが確認できた。 上記の研究に加え、人工ゲージ場を用いないでp波対振幅をs波超流動状態中に誘起する方法を研究、トラップポテンシャル中のクーパー対形成に関与する2種類のフェルミ原子が異なるトラップポテンシャルを感じたり、質量が異なる場合にp波対振幅が誘起されることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、既に実現、あるいは理論的に提案されている様々なタイプの反対称スピン軌道相互作用について、誘起されるp波対振幅の種類と強度を全相互作用強度で明らかにすることができた。同時に、それらの場合について、s波超流動の転移温度も理論的に決定することができ、大きなp波対振幅が得られるパラメータ領域が、現在の実験技術で十分アクセス可能であることを明らかにした。これは、スピン軌道相互作用を利用してp波超流動の実現を目指す本研究のアイデアを支持する結果であり、フェルミ原子気体におけるp波超流動実現の可能性を高めることに貢献できた。 また、人工ゲージ場を用いずとも、トラップポテンシャルの効果や、クーパー対に関与するフェルミ原子の質量差の効果によってもp波対振幅を誘起することが可能であることも明らかにし、p波超流動を実現するためのアプローチの方法の選択肢を広げることができた。 以上の結果は本年度当初に計画していた内容を上回る成果であり、達成度は「当初の計画以上に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは絶対零度と超流動転移温度の場合のみを考えてきたが、超流動転移温度以下の有限温度領域に研究を拡張、どの程度温度を下げれば絶対零度で得られるような大きなp波対振幅が得られるか、をBCS-BECクロスオーバー全域で明らかにすることを目指す。また、超流動揺らぎの効果はこれまでガウス揺らぎの理論の枠内で扱ってきたが、より高次の揺らぎまで考慮できるよう、理論の拡張も行う。 人工ゲージ場を用いないでp波対振幅を誘起させるアイデアについて、本年度は簡単化のため格子モデルを用いて研究したが、より現実に即した連続系の場合に拡張、この方法で誘起されるp波対振幅の強度を定量的レベルで予言することを目指す。 p波対振幅を誘起した状態で引力相互作用をs波相互作用からp波相互作用に切り替えた後の系の時間発展について時間依存BdG方程式を用いて解析、本研究のアイデアで人工的に作り出されたp波超流動状態がどのように安定化、あるいは崩壊していくか、を研究する。
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