本年度は昨年度までに実施した,ボース凝縮体の断層撮像,波長1064nmレーザーで形成した光ポテンシャルによるボース凝縮体の密度制御の技術を駆使し,位相幾何学的方法によってルビジウム87ボース凝縮体中に生成した渦度4量子渦の崩壊ダイナミクスに関して以下の研究を行った。 1.渦度4量子渦の新奇崩壊ダイナミクスの探索: 渦度4量子渦は動的不安定性を有するため,数ミリ秒でよりエネルギーの低い4つの渦度1量子渦に崩壊する。理論研究ではこれら4つの渦度1量子渦がボース凝縮体の密度に依存して,直線配列や三角形配列,四角形配列することが示されている。しかしながら,先行実験研究では,直線配列しか観測されていない。本研究では光ポテンシャルでボース凝縮体の密度を制御し,直線配列の次に発生頻度の高い三角形配列を観測することを試みた。ボース凝縮体密度を直線配列が起きず三角形配列のみが生じる値に保持することで,三角形配列の観測に成功した。 2.渦度4量子渦の崩壊の制御: 上記と同様に光ポテンシャルでボース凝縮体の密度を崩壊の起きにくい値に制御することで,渦度4量子渦の崩壊寿命の長期化を試みた。密度制御をしない場合は10ms以内で渦度4量子渦はほぼ100%崩壊したが,本実験では,10ms後の崩壊を1/3程度まで抑制できた。本結果は,位相幾何学的渦生生成を繰り返し行うことでより高次の多重渦度量子渦を生成する「量子渦ポンピング」の実現に繋がる成果である。 研究機関全体を通じて,渦度4量子渦の安定生成および有効な量子渦観測手法を確立でき,未観測の崩壊モードの観測および崩壊寿命制御に成功した。今後は,スピン自由度を有するボース凝縮体における多重渦度量子渦のダイナミクスの解明および量子渦ポンピングの実現を目指す。
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