研究課題/領域番号 |
25400423
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
筒井 泉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10262106)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 弱値 / 弱測定 / 精密測定 / 量子測定 / 物理量の実在性 |
研究概要 |
平成25年度は研究課題に関して、以下の3つのテーマの研究を行った。 (i) 「弱値」の物理的意味:新しい量子物理量である弱値は、交換しない複数の物理量に対しても確定した値を持ち得ることから、不確定性関係や相補性といった量子力学の根幹的性質のより深い理解に繋がるものと期待されている。この観点から、申請者は弱値の物理的意味を調べ、弱値の虚数部分は一般に量子干渉の指標を与えるものであることを発見した。 また弱値の実数部分は確率的な要素を付与した実在量として考え得ることを示し、弱値が粒子性と波動性の両者を統一的に表現する物理量として解釈できる可能性を示した。 (ii)「弱測定」を精密測定に応用するための理論的整備:弱値の増幅を弱測定を通して達成し、これを利用して物理量の精密測定に応用する試みが世界的に行われるようになっているが、この増幅が状態選択による一部のデータの棄却によって達成されることから、情報量の観点からその有効性への疑問が提出されていた。申請者は、新たな国際標準となっている「測定の不確かさ」の概念に含まれる本質的に統計処理の出来ない要因を考慮に入れれば、確かに弱測定は精密測定に有効であり得ることを示し、その一般理論を構築した。 (iii)「弱値」の直接測定:従来の間接測定に加えて、未だに確立されていない弱値の直接測定の可能性を調べた。その結果、2つの物理量の確定に必要な条件である「同時測定可能性」とは別に、「交換測定可能性」という新たな概念が定義可能であり、これを直接測定において状態選択と物理量の測定が満たす場合には、その測定結果が弱値の実数部分となることを明らかにした。この成果は、弱値の虚数部分を量子干渉と関係づけた(i)の成果を併せて、従来曖昧であった弱値の物理的意味を明確にするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究の目的」では、「弱値」の基礎と応用の両面からの研究を目的とする旨記載したが、今年度の研究はこれを忠実に実施し、概ね予期した成果を得ることができた。 具体的にまず基礎の面では、弱値が複数の一般に同時測定可能ではない物理量を測定可能であることが、新たな「交換測定可能性」の概念の導入によって、量子測定の理論の中に整合的に組み込むことができた。さらに、弱値の虚数部分が量子干渉効果と直接的に関連し、実部についても確率論的な実在性を有することを発見したことは、弱値という新しい物理量に、一定の実在性とともに明確な物理的意味を与えられたものと評価している。 一方、応用の面では、弱値の増幅による精密測定への応用が大きな注目を集めていることから、今回の研究で、確かに弱測定がこれに有効であり得ることが示せたことのインパクトは大きいものがあると考えている。これが可能になった鍵は、測定の理論的枠組の中に新たな国際標準となっている「測定の不確かさ」を組み込んだことにあるが、数学的に厳密な測定理論としてはまだ未完成であり、一般にどのような場合に弱測定が有効になり得るのかについては、さらに研究が必要になっている。これらについては、量子的な情報量の評価の観点からの総合的解釈も併せて行う必要もある。 以上を要約すれば、基礎の面では十分に予期した結果が得られたと考えられ、応用においても、その理論的基盤の整備に関しては、ほぼ予定通りの成果を得ることができたと評価している。一方、情報量の概念の導入や、精密実験の具体的な応用先の選定と有効性の分析の実施についてはやや未達成の部分もあり、これらについては今後の研究課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
上記の「現在までの達成度」に記したように、これまではほぼ計画通りに研究が進展していることから、今後の研究の推進方策については、当初のものから大きな変更の必要は無いと思われる。 但し、弱測定については現在、その応用である精密測定への期待が大きく膨らんでおり、その応用先として重力波や素粒子の性質(例えば中性子の電気双極子モーメントや、ニュートリノ振動における崩壊寿命)などが議論の対象になりつつあることから、これらについて可能な限り具体的に弱測定による精密測定の有効性を調べ、その結果を実際の実験の分析や改良に役立てたいと考えている。
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