本研究では、ステレオカメラによる三次元軌跡の計測を基本的な手法として、鳥の群れの動態の解析を進めてきた。前年度までにほぼ完成した、カーボン素材を用いた長基線長型のステレオ撮影システムについて、ソフトウェアやセンサー類のさらなる改良を加え、それをフィールドに持ち出して、ムクドリやスズメの群れ、およびマガンやハクチョウの編隊飛行の計測を多数回実施した。 ガンやハクチョウなどの大型の鳥がV字型の隊形を組むのは、前方の個体の翼から生じた翼端渦を後方の個体が利用することで飛行に必要なエネルギーを有意に節約できるからである、と考えられてきた。しかしながら、現実の環境で、そうした調整がどのように行われているかについて、定量的な解析は殆ど成されていなかった。本研究では、個体間の相対位置や飛行速度を十分な精度で計測できるため、こうした流体力学的な議論との整合性について、実データによる検証を試みた。具体的には、地上に風向・風速計を設置し、マガンやハクチョウの編隊の個体間の相互位置と、その風による影響を調べ、個体の相互配置が横風の影響を受けており、それが流体場の風による変形で説明できることを定量的に明らかにした。さらに、羽ばたきによる渦場の「変調」の影響を見るために、羽ばたきのダイナミクスと位置関係を詳細に解析し、V字型の鳥の編隊を1次元状の結合振動子モデルとして記述し、位相同期を通じて、編隊全体の飛行コストが減じられている可能性を新たに見出した。 小型のムクドリやスズメ等の群れについても解析を進めているところであるが、現状のシステムのままでは長時間的なトラッキングが難しく、手法の改良・開発も含め、今後の課題と考えている。
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