平面にパチンコ玉やビリヤードの球を並べると、1つの球のまわりには6つの球が並ぶことは誰もが知っている事実であり、ヘキサゴナル構造とよばれるこの構造は電子、原子から始まり、液晶分子、コロイド球、界面活性剤が作るミセル、高分子のメソ構造に至るまで、普遍的な規則構造として知られている。あるいはサッカーボール型フラーレン分子や球状ウィルスのように、正曲率曲面である球面上の規則構造もよく知られている。しかし、ポテトチップのような馬の鞍型(負曲率)曲面上の物理的規則構造の研究はなされていなかった。 ジャイロイド,ダイヤモンド(D),プリミティブ(P)とよばれる負曲率をもつ3次元空間に周期的に織り込まれた曲面(3重周期極小曲面)に関連した物質構造がはじめて発見されたのは1960年代の界面活性剤系で、1990年代以降、ブロック共重合体、液晶などの有機分子、界面活性剤を利用して合成される多孔質シリカ、有機-無機ハイブッリッド分子、生体内でもミトコンドリア、網膜色素細胞、葉緑体、蝶の羽の鱗粉などでつぎつぎに発見された普遍的構造である。 研究代表者は高橋、田中と共同し、P、D曲面上の剛体球のシミュレーションを行い、ソフトマター系で重要なエントロピーを駆動力としたアルダー相転移を観察することによって、これまで知られていなかった負曲率曲面上の規則構造を多数発見した。それらはまず曲面のもつ空間群の部分群として立方晶になるもの、三方晶になるもの、部分群ではなく2倍の超構造を作るものの3種に分類された。また双曲空間(ポアンカレ円盤)、3次元タイリングとしても解析された。さらにCasparとKlugの20面体ウィルスの配列を説明するT数とよく似たH数を定義して規則構造のマジックナンバーを明らかにした。これらの結果は、ソフトマター物理学、結晶学、数学という異なる研究分野を横断する学際的成果である。
|