研究課題/領域番号 |
25400432
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鈴木 芳治 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (90236026)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | クラスレートハイドレート / 圧力誘起アモルファス化 / アモルファス氷 / ポリアモルフィズム / ガラス転移 |
研究概要 |
アモルファス化したTHFハイドレートの圧力ー温度状態図を構築するため、減圧及び加圧過程における試料の体積測定及び熱測定を行った。さらに、高圧力下の昇温による試料の体積測定及び熱測定を行い、これらの結果を純水の高密度アモルファス氷(HDA)の圧力ー温度状態図と比較した。これらの比較から以下のことが分かった。1.THFクラスレートのアモルファス化圧力は純水の氷Ihのアモルファス化圧力より高圧側にシフトした。2.アモルファス化したTHFクラスレートの高圧下での結晶化温度は純水のHDAの結晶化温度より高温側にシフトした。3.加圧による低密度状態のアモルファスTHFハイドレートから高密度状態のアモルファスTHFハイドレートへの転移圧力はLDA-HDA転移圧力より0.2GPa程度高圧側にシフトした。4.アモルファス化したTHFクラスレートの高圧下でのガラス転移の存在を確認した。 1、2、3の実験結果は、THF分子の存在は低密度状態の水(氷)に見られる水素結合ネットワークのの四面体配置をより安定化していることを示唆している。4の結果は、HDAのガラス転移が存在することを強くサポートする結果である。これらの結果は、疎水性物質の水溶液と水のポリアモルフィズムとの関係を理解する上で重要である。なぜなら、疎水性物質の水への難溶性のために、疎水性物質と2つのアモルファス氷と相互作用を実験的に調べることが困難であった。しかし、アモルファス化したTHFクラスレートの高密度状態及び低密度状態は、それぞれTHF分子がHDA及びLDAの溶媒に溶けた状態とみなすことができる。これは、THF分子と水の溶媒状態との関係を実験的にアプローチすることが可能になったことを示唆している。従って、この実験結果は水のポリアモルフィズムの観点から疎水性水和状態を考察する上で大変意義があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標の1つであるアモルファス化したTHFハイドレートの圧力ー温度状態図の構築は、アモルファス化したTHFクラスレートの高密度状態変化に関する領域では完了した。不足データは、低密度のアモルファスTHFクラスレートの状態に関するデータの一部であるが、走査する領域は狭いため相図の構築は短時間で完了する。現時点で、次年度以降の実験を遂行するに必要な相図を構築することができた。 初年度のもう1つの目標である「ガス駆動式のダイヤモンドアンビルセル(DAC)をラマン分光測定用冷凍機に組み込むための改良作業」は、外側チェンバー部とDACアタッチ部の作成は既に完了している。DACのダイヤモンド窓部に付着した氷片を除去する機能の設計・開発が手間取り、遅れているため、この件の達成度は現段階で50%程度である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、以下の案件があげられる。 ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を組み込んだラマン分光測定用冷凍機を完成させ、高圧・低温下でのアモルファス化したTHFクラスレートの溶媒状態のダイナミックスをラマン分光法で調べる。特に溶媒のポリアモルフィックな状態変化に伴うTHF分子の振動の変化を調べる。この研究を進める上での課題は、DACのダイヤモンド窓部に付着した氷片がラマン測定を阻害するため、氷片を窓部から除去する機能を冷凍機に組み込み、ラマン測定およぶ目視観察を可能にすることである。現在、氷片を窓部から除去するための機能を設計・開発している。 一方、THFクラスレートの圧力融解曲線を測定して、昨年度に求めた圧力誘起アモルファス化曲線の熱力学的連続性を調べ、結晶の圧力融解現象と圧力誘起アモルファス化の関係を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
DACをラマン測定用冷凍機に組み込むための改良過程で、DACの窓部の氷片除去する機能の設計が手間取り、装置の作成が遅れたため次年度使用額が生じた。 高圧・低温下でのその場ラマン分光測定を完成させるため、次年度使用額を改めてDACをラマン測定用冷凍機に組み込むための改良に使用したいと考えている。とくにDAC窓部の氷片を取り除くための開発費として使用する。
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