研究課題/領域番号 |
25400434
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山田 悟史 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (90425603)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 自己組織化 / 量子ビーム / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
本研究では機能性を付与できる薄膜として着目されている交互積層膜(Layer-by-layer film)の材料として、高い生体適合性を有するリン脂質のナノディスクに着目し、その積層メカニズムの解明、および交互積層膜の作成を目的として研究開発を行う。この目的を達成するために、昨年度までにナノディスク水溶液を基板と接触させた際に形成される自己吸着膜について、中性子反射率法、および原子間力顕微鏡を用いたその場観察を行い、ナノディスクの吸着にはナノディスク自体の電荷より、むしろ基板の表面修飾による影響が大きいことが明らかとなった。通常、交互積層膜は異なる電荷の高分子溶液に交互に浸漬することによって作成できるが、この結果は単純な電荷の操作ではリン脂質ナノディスクの交互積層膜が作成できないことを示唆している。 そこで、本年度は視点を変えて積層膜から機能性物質を放出するために必要な、リン脂質積層膜の剥離過程について中性子反射率法による評価を行った。用いた系は基板上にスピンキャストと呼ばれる方法で積層した中性リン脂質(DOPC)の二分子膜で、100枚以上の積層数を有している。これに水を接触させ、そこからの膨潤・剥離挙動を中性子反射率法で観察したのだが、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の大強度ビームを利用することにより秒オーダーで剥離過程を観察することができた。この際、過去の研究により塩化カルシウムの添加によりリン脂質の膜間距離が無限遠に発散する剥離転移が生じることが知られているため、その塩濃度依存性について調べたところ、相転移が一次転移的であること、基板の近傍では剥離転移が阻害され、数枚の膜が基板に吸着したまま残存することが明らかになった。これは剥離転移が静電相互作用と膜の波状運動によるエントロピーに由来の斥力との共同で生じていることを意味しており、既存の結果を強く補完するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、リン脂質ナノディスクによる交互積層膜の作成においては、電荷の効果により単純積層することが困難であることが明らかとなった。この点は大きなマイナスであるが、外場の変化により機能的に内包物を放出する、という目的に立ち戻ってリン脂質の剥離過程を制御する点に着目した研究を進めており、全体としては順調に進展していると考えている。論文の作成についてはデータが揃っているものの十分に時間がとれておらず、その他の業務とのエフォート管理について課題が残されているが、次年度以降に報告できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
交互積層膜に変わる機能性リン脂質薄膜について、細孔を有するリン脂質を作成し、それを用いた物質輸送の制御について検討を進めており、重合可能なリン脂質や短鎖リン脂質、リゾリン脂質といったリン脂質を候補として考えている。これらを用いてまずは薄膜を作製し、原子間力顕微鏡を用いて表面構造解析を行うと共に、中性子反射率法を用いて膜厚や組成、密度、といったパラメーターを評価することによって細孔形成についての評価を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定からの変更によって少額差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
試薬等の消耗品を購入するのに使用する。
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備考 |
本研究で使用した中性子反射率計SOFIAの研究開発について、日本中性子科学会奨励賞を受賞した記事。これにより、リン脂質積層膜の剥離過程が秒オーダーという短いタイムスケールで測定することが可能になった。
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