最終年度は主に,コレステリックブルー相を示すキラル液晶のバルクの構造の共焦点顕微鏡像を数値計算によって再現することを試みた.有限の厚さの液晶セルに対して単色光が入射した際の反射光の計算を,入射光の波数ベクトルを変えて行なった結果を組み合わせることで,共焦点顕微鏡像の再現を行ない,実験で得られている結果を像の対称性,焦点面の深さ方向依存性について定性的に再現することに成功した.コレステリックブルー相の秩序構造の周期は光の波長程度以下であり,幾何光学が使えないことから,実験観察をサポートする理論的研究はこれまで行なわれてこなかった.本成果は,光学的手段による実空間観察の可能性を,光の波長程度の特徴的スケールを有する構造に拡張するための理論的ベースを与えるものである.その他に,高分子安定化コレステリックブルー相について,高分子の部分のテンプレートとしての役割を調べた. 全研究期間において得られた成果を要約すると,以下のようになる.(i) 正弦波状の溝中に配置されたネマチック液晶が示すジグザグ状の配向欠陥が,吹き付けられた気体のキラリティに応じた形状変化をするという現象について,簡単なモデルに基づき半定量的な理解を与えることに成功した.(ii)欠陥を含む配向パターンをインプリントした表面からなる液晶セルの配向秩序構造を検討し,バルクの液晶中に生じる欠陥線の構造について,実験結果を数値的に再現することに成功した.(iii) キラル液晶からなる薄い平行平板セルにおける秩序構造の形成とダイナミクスについて,連続体シミュレーションによる考察を行なうとともに,その光学的手法による観測に関する検討も行ない,実験で得られたコッセル図,および実空間像をほぼ完璧に再現することに成功した..(iv) コレステリックブルー相液晶の3次元秩序構造について,共焦点顕微鏡像の数値的再現を行なった(上述).
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