地球内部の不均質構造は、温度不均質構造と化学不均質構造とに大別され、一般的には前者は後者よりも長波長成分に卓越すると考えられている。本研究の目的は、これまで良くわかっていない短波長不均質の3次元分布を明らかにし、地球内部不均質の成因にせまることである。散乱波エンベロープデータは短波長不均質構造の情報を持つが、系統的な解析手法が十分整っていなかった。本計画では新たな系統的解析手法を開発し、大規模データに適用することにより、この状況を打破することを目標とする。 本年度は、本研究の核となる散乱波エンベロープ解析手法を改善し、効率的な解析ソフトウェアを開発した。地震波散乱によるエネルギー分配は、P波・S波の別、入射及び出射の方位に加え、S波の偏光様式に依存する。古典的な手法では、線形偏光を仮定するが、実際はS波の独立な2成分間に位相差が存在し、これが散乱様式に影響を与える。今年度開発したソフトウェアでは、この影響を厳密に取り入れ、解析ソフトウェアを完成させた。 この成果の地球科学に与える影響は大きい。なぜなら、厳密な波動伝播をシミュレーションすることにより、成分間のエネルギー分配を正確に再現でき、情報として活用できるからである。散乱波エンベロープを使った震源過程解析、散乱波エンベロープを使ったレシーバー関数解析など、古典的な地震学で行ってきた一連の解析を統計論的地震学に拡張でき、新たな学問分野を構築する礎を本プロジェクトで完成させたと言って良いであろう。
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