研究課題
電気伝導度は地下の状態,特に間隙流体の存在やその連結度に敏感な物理量である.このため,沈み込むプレートからもたらされる水の循環の実態や地震・火山発生メカニズムを解明するためにその精度の高い3次元構造を求めることが望まれる,本研究では,比抵抗の大きさと構造の長さについて,正しいスケールを持った構造を決定するため,広帯域MT法観測から得られる小スケール表層不均質によらない観測量(位相テンソルと鉛直-水平磁場変換数)と,同じく表層不均質によらない長基線地電位差観測を基本としたネットワークMT法観測から得られる観測量の同時3次元インヴァージョンコードの開発を目指している.その第一歩として,昨年度,まず広帯域MT法観測のみから得られる表層不均質によらない上記の2種の応答関数を用いた3次元インヴァージョンコードを開発した.本年度は,まず.そのコードの有用性の検証といわき誘発地震帯で実施していた広帯域MT法観測実データへの適用を試みた.その結果,一様な背景構造の中に孤立した直方体の比抵抗異常が存在するという単純なモデルでも,初期値や大局比抵抗値が真の背景構造の比抵抗値に一致しない時には,異なるスケールを持った構造が返されてしまい,以前に開発していた位相テンソルのみのインヴァージョンと同様の欠点をもつことが判明した.しかし,実データに適用した結果では,インヴァージョンされた構造のスケールは初期値や大局比抵抗設定値によらず,広帯域MT法から得られるデータのみを用いても3次元インヴァージョンとして望ましい性質を持っていることが明らかとなった.実データへの適用では,海陸分布を与え,海水部分の比抵抗値を固定するが,そのことがインヴァージョンに正しいスケールを与えることが確認できた.一方で,さらにこのコードにネットワークMT法データのインヴァージョンを付加するためのコードの整備を行った.
2: おおむね順調に進展している
当初計画における本年度の研究達成目標は,1)昨年度に完成させた,位相テンソルと磁場変換関数を用いた3次元インヴァージョンコードに対して,シンセティックモデルによる性能評価と実データでの有用性の検証,2)1)の表層不均質によらない広帯域MT法応答関数に加え,長基線地電位差観測を基本としたネットワークMT法観測から得られる応答関数をインヴァージョンするコードの開発,を行うことにあった.研究実績で述べたように,1)に関しては,特にいわき誘発地震帯で実施した観測実データへの適用において,初期値や大局比抵抗値設定にかかわらず正しいスケールをもった構造が求められることが確認できた.しかしながら,1)の検証や実データの準備や適用,その結果の検証にやや長い時間を要し,2)に関しては,従来のコードを見直してジョイントインヴァージョンコードを構成する準備を行うにとどまった.この意味では,当初の予定からは,やや研究の進捗に遅れが出たことになる.しかしながら,本研究の大目標は,「構造スケールを狂わせる表層不均質由来の歪みの影響を受けない観測データのみを用いて,正しいスケールを持った構造を推定する手法の確立を目指す」ところにあった.このため,1)において,本研究で開発したコードを用い,既知である海水比抵抗値を固定することで,位相テンソルと磁場変換関数を用いるだけでも正しいスケールを持った構造が推定できたことは,本研究全体の一つの成果であると評価できる.特に日本は,周囲を海に囲まれているため,ここで開発したコードの有用性ははかり知れない.このため,おおむね順調に進展していると評価した.
1)現時点では,位相テンソル・磁場変換関数3次元インヴァージョンコードは,海水など比抵抗値を固定できる場所を持たない(例えば大陸域などの)一般的な問題に対して,正しいスケールを持った構造を返す保証はない.しかしながら,現時点で成功していないのは,大局比抵抗値のインヴァージョンに与える効果の設定によっている可能性が残されているため,今後の適用を考え,この点を明らかにする.現時点では,インヴァージョンの目的関数は,滑らかさを規定する項とデータのミスフィット項からなる.しかし,定式上,よりラフな構造を与えようとするほど大局比抵抗からのずれを小さくしようと設定することになっているため,恣意的に滑らかな構造推定をさせることで,初期値依存や大局構造値依存が解消する方向に向かうかの検証を行う.2)基本的に位相テンソルは構造の鉛直方向の変化を表し,磁場変換関数は構造の水平方向の変化を表す.両者とも構造の変化のみに敏感な物理量であるため,真のスケールが復元されない可能性はあるが,1)で大局構造値へのしばりを小さくすることで真のスケールが戻るようであれば,そこに真のスケールが復元される何らかのメカニズムが存在するはずであるので,その解明を図る.3)長基線で測定された地電位差は,真の大局構造のスケールを反映しているはずであるので,長基線地電位差もあわせて用いることのできる位相テンソル・磁場変換関数・ネットワークMT応答関数3次元インヴァージョンコードを完成させ,1)で述べた固定値を持たぬ一般的な問題に対する有用性の検証を図る.
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