| 研究実績の概要 |
前年度に得られた東北日本のS波異方性構造と比較するために，同地域で用いたPs変換波の解析方法と同じ方法によって，西南日本の上部・下部地殻のS波偏向異方性構造を推定した．主な結果は， S波偏向異方性が上部地殻と下部地殻で異なっていることである．特に，上部地殻の異方性は西南日本の広域応力場と調和し，下部地殻異方性は同地域に於けるフィリピン海プレートの沈み込みと西南日本の運動の相互作用によって決まることを示した．これらの研究成果を学術雑誌（Tectonophysics, 658, 137-150, 2015）に掲載した．西南日本と東北日本の地殻異方性構造に見られる共通点として，上部地殻の異方性は広域応力場に密接に関係していること，下部地殻の異方性は日本列島に沈み込む海洋プレートの影響を受けている可能性があることが挙げられる．
また，西南日本の地震波速度とP波減衰構造のトモグラフィーを得ることができたので，地震波の減衰とS波偏向異方性との関係を吟味するために，地震波の減衰がS波偏向異方性に及ぼす影響を調べた．まず，減衰の影響を考慮した異方性水平成層構造に平面P波が入射したときの合成波形からP波レシーバ関数を合成し，それに現れるPs変換波のS波偏向異方性について調べた．その結果，減衰を考慮したPs変換波はそれを考慮しない場合に比べて滑らかな波形となることや，地震波の減衰がS波偏向異方性に及ぼす影響は大きくないことを確認した．このことより，西南日本で得られたS波偏向異方性の分布は地殻内部の減衰構造の影響を受けてないと考えてよい．同様に，東北日本で得られた異方性構造も減衰の影響を受けていないと推定できる．これらの結果を纏め，岡山大学理学部地球科学科の紀要（岡山大学地球科学研究報告，22,1-7, 2015）に掲載した．
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