研究課題/領域番号 |
25400456
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
伊藤 康人 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20285315)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 岩石磁気 / 浸透率 / 異方性 / 活断層 / テクトニクス / 磁化率 / 磁性流体 / 変動帯 |
研究概要 |
平成25年度においては,岩石の浸透率異方性を評価するための基礎的な地質学的データの取得をひとつの目標とした。そのため,活発な断層活動による岩盤破砕のためフラクチャー発達が予想される地域で地質構造解析を行った。具体的には,西南日本と東北日本を分断する逆断層である糸魚川-静岡構造線の近傍と,西南日本最大の活断層である右横ずれの中央構造線の近傍について地質調査を実施し,構造形成プロセスを考察した。 それらの地域ではフィッション・トラック法やウラン-鉛法などの放射年代測定データを取得して,地殻変動速度を定量的に評価した。また,重力異常や地磁気異常のモデリングに基づいて断層の累積変位と密接に関連した地下構造モデルを構築し,反射法地震探査解釈を通じてモデルの蓋然性を評価した。 以上の調査と並行して,磁性流体を分析試料に圧入するための加圧ベッセルと実験システムを大阪府立大学に構築し,稼動開始に向けての基盤を構築した。予備実験として,国内で堆積学的研究が盛んに行われているタービダイト砂岩について磁性流体圧入を試行し,処理を施した岩石試料についてカッパブリッジによる浸透率異方性パラメータの取得を行うと同時に,共同利用研究施設でマイクロフォーカスX線CTスキャナを用いたフラクチャー分布の高精度解析を行い,新規ソフトウェアを導入してCT画像データ処理の標準フローを確立した。その成果については,論文として取り纏め,学術雑誌に投稿している。 さらに,日本列島などのプレート収束境界における堆積盆形成テクトニクスについて最新の知見を整理する目的で,当該分野の第一線の研究者を招聘して書籍を編纂し,個別研究のための方法論を整備した。その成果はオープンアクセスの電子書籍として,世界で1万件以上のダウンロード実績を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
活発な断層活動による岩盤破砕のためフラクチャー発達が予想される地域として,西南日本と東北日本を分断する逆断層である糸魚川-静岡構造線の近傍と,西南日本最大の活断層である右横ずれの中央構造線の近傍で詳細な地質調査を実施した。これによって,岩石の浸透率異方性を評価するための基礎的な地質学的データを得ることができた。それと同時に,活断層評価など地域防災に資する情報を整備することができた。 それらの地域で得られたフィッション・トラック法やウラン-鉛法などの放射年代測定データは,従来実施の困難だった地殻変動速度の定量的評価に大きく貢献した。また,断層の累積変位を重力異常や地磁気異常のモデリングに基づいて見積もることに成功し,反射法地震探査解釈を通じてモデルの蓋然性を評価することができた。 磁性流体を分析試料に圧入する予備実験として,国内で堆積学的研究が盛んに行われているタービダイト砂岩について磁性流体圧入を試行し,処理を施した岩石試料についてカッパブリッジによる浸透率異方性パラメータの取得を行うと同時に,共同利用研究施設でマイクロフォーカスX線CTスキャナを用いたフラクチャー分布の高精度解析を行い,新規ソフトウェアを導入してCT画像データ処理の標準フローを確立した。これは,国内で初めて取得に成功した情報であり,世界的に見ても構造変形の進んだ岩石からの報告事例はない。今後のデータ蓄積によって,さらなる研究手法の発展や新しい理論構築が期待される。 日本列島などのプレート収束境界における堆積盆形成テクトニクスについて最新の知見を整理する目的の書籍編纂についても,当該分野の第一線の研究者から多くの反応を得て,個別研究のための方法論整備に非常に有効であった。
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今後の研究の推進方策 |
岩石の浸透率異方性を評価するための基礎的な地質学的データ収集については,西南日本と東北日本を分断する逆断層である糸魚川-静岡構造線の近傍と,西南日本最大の活断層である右横ずれの中央構造線の近傍で詳細な地質調査を続行する。断層運動に伴う地形発達過程の解析には,堆積環境復元のための堆積学的研究が有効である。層相変化記載に基づいて堆積システム解析を進め,堆積盆形成プロセスの解明を目指す。 フィッション・トラック法やウラン-鉛法などの放射年代測定データが定量的解析に極めて有効であることは,昨年度の研究によって示されているので,引き続き試料の収集と分析を続行する。重力異常解析については,これまでの二次元モデリングに加えて,タルワニ法に基づく三次元モデリングを導入し,より現実に即した地下構造を解明する。地磁気異常解析については,オープンアクセスのデータベースを活用して広域モデリングを行い,解釈の一助とする。反射法地震探査解釈については,コンピューターを用いた解釈システムを導入して大容量データの取り扱いを可能にする。 磁性流体を分析試料に圧入するための加圧ベッセルと実験装置については,大阪府立大学に構築したシステムを本格的に稼動させ,処理を施した岩石試料についてカッパブリッジによる浸透率異方性パラメータの取得を行うと同時に,マイクロフォーカスX線CTスキャナを用いたフラクチャー分布の高精度解析を行う。これと並行して,微視的なフラクチャーネットワークの可視化技術については,ソフトウェアを更新して分析ルーチンの改良を試みる。 研究成果は,滞ることなく学会発表や論文公表を通じて社会に発信し,さらに包括的な研究課題発掘を目指して先端的な情報交換を推進する。
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