研究課題
簡易軸対称台風強度予報モデル(CHIPS)を用いて、過去5年分の再予報実験(約2800事例)を行った。入力値となる環境場は気象庁全球モデル(GSM)の予報値から作成した。同事例において、統計モデルおよびGSMによる予報値と比較し、予報時間が48時間以上でCHIPSの予報誤差は同等か小さかった。これは台風強度が主に環境場の外的要因によってコントロールされていることを示唆する。また、CHIPSは統計モデルとGSMに比べて、台風の急激な発達をよく捉えることが明らかになった。これは解像度の粗いGSMでは十分解像できない台風内部構造を、台風中心付近で高解像度のCHIPSではある程度表現できることに起因する。一方、陸域が影響する事例はCHIPSよりもGSMの方が良く再現していたが、CHIPSでは複雑な地形の影響を表現できないためと考えられる。いくつかの外的要因の感度を調べたところ、下層相対湿度は発達・衰弱に大きく寄与すること、鉛直シアは予報時間全般に影響すること、混合層厚さは予報後半に影響することなどが示された。3つの予報センター(気象庁、欧州中期予報センター、米国環境予測センター)の全球予報値からそれぞれCHIPSの環境場を取り出し、外的要因のばらつきが強度予報に与える影響を調べた。その結果、24時間予報以降でセンター間の違いが生じ、3つのセンターのアンサンブル平均を予報値の誤差は、各センターの予報誤差より小さかった。しかし、全事例について平均すると、アンサンブル平均の改善率は小さく、改善する事例は環境場のばらつきが大きい事例に限られることが示唆された。実利用の観点から、CHIPS、統計モデル、GSMの3つを組み合わせた強度予報を作成し予報誤差を調べたところ、全予報期間において気象庁発表予報と同等かそれより小さい誤差となり、気象庁の台風強度予報の改善に資すると期待される。
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