研究課題
基盤研究(C)
世界有数の硫酸塩粒子の生成域と考えられる北陸地方上空での大気環境評価のため、2013年8月および2014年3月に、小型ヘリコプターを利用した上空大気観測を実施した。高度2000 ft (600 m) 毎に10分間旋回水平飛行し、8月の観測では高度10000 ft (約3000 m) まで、3月については高度8000 ft (約2400 m)まで上昇した。旋回水平飛行中に、ミストチャンバーにより大気中の過酸化物を採取した。試料採取終了後、富山県立大学構内へ下降し、速やかにHPLC・ポストカラム・酵素式蛍光法により分析を行った。学内へサンプルを輸送後には、直ちに次の高度へ上昇し、試料採取を行った。この方法により、試料採取後5分以内に分析することができ、精度の良い過酸化物の測定を行うことが可能となった。また、ヘリコプターの後部座席には、オゾンや二酸化硫黄測定器およびパーティクルカウンターを設置し、自動計測を行った。観測を行った両日は、ともに越境汚染の影響を受けていた。そのため、2013年8月は、オゾンや過酸化物が高濃度であった。また、3月の観測期間中、微小粒子および粗大粒子共に数濃度が高く、PM2.5と黄砂粒子が共に輸送されていたものと考えられる。8月については、過酸化水素は上空で高濃度であり、二酸化硫黄よりも高く、上空では十分な酸化能力があると考えられる。一方、3月の観測時は、二酸化硫黄に対して過酸化水素が低い状態であった。寒候期においては、高濃度の二酸化硫黄が輸送されても、雲水の酸性化や硫酸塩粒子の生成が抑えられているものと考えられる。さらに、立山や能登半島先端部の珠洲市においても、オゾン、二酸化硫黄、粒径別粒子個数濃度や硫酸塩粒子の観測を行った。アジア大陸からの越境汚染の他に、2013年7月には桜島からの噴煙の影響も観測された。
2: おおむね順調に進展している
ヘリコプターを利用した上空大気観測法を確立することができ、特に、これまで国内でほとんどなされていなかった上空大気中の過酸化物濃度の測定を精度良く行うことに成功した。この新しい上空大気観測法により、2013年8月および2014年3月にヘリコプターによる観測を実施した。共に越境大気汚染の影響を受けていた期間の観測であり、非常に重要なデータを採取できた。地上や立山においても過酸化物、オゾン、二酸化硫黄や硫酸塩粒子などのデータを多く採取することができ、越境汚染が北陸地方の大気環境に非常に大きな影響を与えていることが明らかとなり、特に、硫酸塩粒子やPM2.5への寄与を推定することが可能となった。また、夏期においては、噴火活動が活発化している桜島の噴煙の影響も受けていることも明らかとなった。ただし、冬季の観測については、天候のため、ヘリコプターによる上空大気観測を実施することができなかった。そのため、冬期の硫酸塩生成過程についての評価は今後の課題となる。
確立された小型ヘリコプターを利用した大気法により、富山県上空の過酸化物や二酸化硫黄などの測定を行っていく。特に越境大気汚染の影響を受けやすくなる秋期から冬期にかけても実施していく。さらにホルムアルデヒドなど二酸化硫黄の酸化を抑制する物質の濃度測定も行い、上空大気中での酸化能力の状況評価や、雲内での硫酸生成、硫酸塩粒子やPM2.5生成量評価を行っていく。上空大気観測の他に、地上や立山など山岳において過酸化物、アルデヒド類、オゾン、二酸化硫黄などの微量気体成分やエアロゾル粒子の観測を継続して実施していく。観測データを蓄積し、越境大気汚染の輸送状況や粒子生成について検討していく。また、最近活動が非常に活発化している桜島の噴煙による大気環境への影響についても評価・検討する。特に、南西方向からの気流が卓越する夏季に集中的に観測を行い、その影響について考察する。
研究はおおむね順調に進んできたが、冬期に予定していた上空大気観測が、悪天候続きで実施できなかった。そのため、予定していたヘリコプターチャーター費の使用が少なくなった。平成25年度に実施できなかった冬期を中心とした上空大気観測回数を増やし、ヘリコプターによる観測データの蓄積を行う予定である。
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