研究課題
基盤研究(C)
平成25年度は,富山大学においてジルコンのカソードルミネッセンス(CL)像の迅速な撮影を可能とした。富山大学に既設の電子線マイクロアナライザを用い,高画質のCL像を5分強で撮影するための最適条件を求めた。また,東北日本の南部北上帯,根田茂帯,及び北部北上帯と,西南日本の浅海成古生界~中生界(飛騨外縁帯,舞鶴帯)及び白亜紀より古い付加体(蓮華帯,周防帯,秋吉帯,超丹波帯,丹波-美濃帯,南部秩父帯)の試料を採取し,砕屑性ジルコン年代分布のデータベースを作成した。主要な成果として,南部北上帯に分布するオルドビス紀~前期白亜紀の3.5億年分の地層の積み重なりから,砂岩24試料を満遍なく採取し,中に含まれる砕屑性ジルコンの年代分布より後背地の変化を推定した。その結果,以下の明瞭な変化が見られた。(1) オルドビス紀~前期石炭紀(4.5億~3.3億年前)の砂岩は,20億~5億年前の砕屑性ジルコンを満遍なく含み,当時南半球に位置したゴンドワナ大陸の北東縁で堆積したと解釈した。(2) 後期石炭紀~前期ジュラ紀(3.3億~1.8億年前)の砂岩は,堆積年代付近の砕屑性ジルコンのみを含み,大陸から離れた海洋性島弧で堆積したと解釈した。(3) 中期ジュラ紀~前期白亜紀(1.8億~1億年前)の砂岩は,堆積年代付近と20億年前頃の砕屑性ジルコンを含み,北中国地塊から砕屑物が供給される場で堆積したと解釈した。以上より,南部北上帯の地層を堆積させた南部北上古陸は,ゴンドワナ大陸北東縁で誕生し,そこから分裂して海洋性島弧として挙動した後に,北中国地塊へ接合したものと考えた。日本の他地域の砂岩についても,南部北上帯の標準層序と比較することで,後背地を考察しつつある。研究の成果は,福井県立恐竜博物館紀要等に掲載した論文4編と,地球惑星科学連合大会及び日本地質学会での計11件の発表により報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
3年間で採取を予定していた試料の内,7割以上の採取が終了し,採取した試料の砕屑性ジルコン年代も概ね測定できた。特に,日本列島で唯一,3.5億年という長期間の地層の積み重ねを保存する南部北上帯において,砕屑性ジルコン年代分布の標準的変化パターンを知ることができた。同時に,日本列島周辺の大陸における火成岩の年代毎の分布や,含まれるジルコンの化学的特徴もレビューしつつある。南部北上帯以外の砂岩の後背地及び堆積場についても,以上の結果を参考に考察しつつある。この様に,日本列島を形成した弧-海溝系と,衝突・分裂を繰り返す世界の大陸との位置関係を概ね解明しつつあり,本研究の最終目的にかなり近付いたと言える。
平成26年度は,白亜系~古第三系の試料採取と砕屑性ジルコンの年代測定を行う。平成26年度末をもって,日本列島を構成する各地質体の形成場と移動・配列の歴史を,オルドビス紀から古第三紀末期(4.5億~2.5千万年前:日本海形成直前)という時代幅で解明し終える予定である。また,世界各地の大陸の衝突・分裂の歴史及び火成活動の変遷についての文献調査も進展させる。平成27年度には,日本列島を形成した弧-海溝系の進化過程を,地球上の大陸の衝突・分裂史に関連づけて記述するとともに,変動の機構論にまで踏み込んだテクトニクス・モデルを構築する。
平成25年度は,17年目と老朽化した東京大学地震研究所の誘導結合プラズマ質量分析装置において,度々マシントラブルが発生した。そのため,予定通りの分析が行えず,物品費を繰り越すこととした。また,十分な結果が得られなかったため,折橋裕二(研究分担者)の富山大への研究打ち合わせは平成26年度へと延期した。その結果,旅費も平成26年度へ繰り越すこととした。平成26年度に,折橋裕二の物品費および旅費として使用する計画である。特に,平成26年度は,富山大学において日本地球化学会年会が実施される。折橋は,これまでの成果を同学会にて発表するとともに,富山大学での研究打ち合わせも実施する予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)
Island Arc
巻: 22 ページ: 227-241
10.1111/iar.12028
福井県立恐竜博物館紀要
巻: 12 ページ: 1-16
Memoir of the Fukui Prefectural Dinosaur Museum
巻: 12 ページ: 17-33
巻: 12 ページ: 35-78
http://evaweb.u-toyama.ac.jp/html/517_ja.html